「旅館再創業」 その5
「また来たい」満足度9へ
Press release
  2004.07.03/観光経済新聞

 「おや、今朝方はあんなにたくさん泳いでいた鯉がいないね」
「日が昇ってどこかへ隠れたんじゃない」
「あっ、あそこ……」
ロビーへ続く廊下ごしに中庭を眺めた宿泊客が、長閑な話に興じている。そうした弾む会話は、聞いているだけで楽しい。
私は、改めてロビーを見渡した。玄関脇のフロント、奥の売店――もう少し老舗らしいたたずまいが欲しいと思う。そうした改装も今回の経営改善計画では折込ずみだが、それに先立って利益構造を確かなものにしなければ、融資計画も画餅に終わってしまう。そうした失敗は許されないし、勝算はある。
経営改善の目的はプロフィットの創出だが、これにはいい意味の循環がある。上昇スパイラルといってもいい。利益をあげて設備の充実を図り、その効果でさらにプロフィットを積み重ねるスパイラルだ。そのためには、利用客の反応を計る一定の尺度をもつことが欠かせない。
かつて多くの旅館は、旅行業者が実施したアンケートの評価点に一喜一憂してきた。否、かつてではなく現状もその傾向に大差はない。それはそれで参考の一助にはなる。だが、プロフィットの上昇スパイラルを考えると、自ら提供するものには、それに合致した尺度が必要だ。ただし、我田引水ではならない。
その尺度の基準が「また来たい」という利用客の満足度だ。満足度は、他館と比べた相対評価ではない。泊ったお客さまがその場で実感した絶対評価にほかならない。宿泊した目的や同行者などの旅行形態をはじめ、評価の根底には多様な条件を想定できるが、それらを加味しながらこの旅館にあった基準で求めていくのが、それこそスジだ。
いま進めている経営改善計画では、「また来たい」満足度を、10点満点で9点ぐらいにまで高めるのが当面の目標だ。その満足度がプロフィットにつながる。
プロフィットにはもう一つの側面がある。社内のモチベーションにかかわる部分だ。社長の飯島隆は、これまでの経緯を振り返り述懐する。「社員の活性をいかに保つかが私にとって大事だった。相応に頑張ってる社員に、不安と失望を持たせてはいけないと思う。それでは経営がなりたたないからだ。といって、余裕があって魅力のある会社には至っていない。そういったジレンマが常に付きまとっていた」と。
社長の温情だが、自分の働きと給与のバランスに満足のできる体系を整えることは、経営側に課せられた大きな役割でもある。社長がその姿勢をもっていれば、社員は救われる。しかし、多くの場合「親の心、子知らず」と同じで「社長の心、社員知らず」に陥っている。そうした現実が、ここ清風園に皆無といい切る自信は、いまのところ私にはない。
私は、次の会議に思いを巡らせた。部門長会議の内容を、部門長個々に質すための会議が予定されている。利益の追求が結果として社員の給与に反映される。それを、どう理解できるか……   
(企画設計・松本正憲=      文中敬称略)

(つづく)

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