「旅館再創業」 その3
会議、さらに会議の連続
Press release
  2004.06.19/観光経済新聞

 紫煙がゆっくりと昇っていく。ほんのつかの間のくつろぎに、誰がなんといおうと私には煙草が欠かせない。すっかり網膜に焼き付いてしまった〈作戦本部〉の室内を眺めながら、吸いさしを灰皿でもみ消した。そう、清風園2階の会議室は、この春から経営改善・構造改革の作戦本部と化しているのだ。ここから新しいドラマが始まろうとしている。
この日、役員承認に続く会議の第2章、部門長会議が始まる。私は資料にざっと目をとおし、時間がくるのを待っていた。
今回のプロジェクトでは、配膳システムをはじめ人事考課制度を導入した給与システムなど、運営にかかわる仕組みを再構築するのと同時に運営コストそのものに対する概念も改めなければならない。ムリ・ムダ・ムラの排除へ向けてカンパニー制を導入するのも、その一つだ。それらのどれ一つとして、容易に実現できるものではない。もてるノウハウをすべて傾注することになる。
そうした会議に次ぐ会議の繰り返しは、コンセンサスを醸成するうえで欠かせない。経営者を含む全関係者の意識改革が、いまはなによりも大切な時期だからだ。理想的な結論を提示して遮二無二推し進め、結果が出なければ「皆さんの努力が足りない」などとうそぶく発想は、評論家でもないかぎり許されない。
難しいのは、足場固めともいえるそうした意識改革をすすめながら、一方では運営変更へ向けた具体的な作業も同時に進行させなくてはならないことだ。
とりわけ経営改善は、肝臓病と糖尿病を同時に治療するようなものだ。必要な部署へは栄養を与えながら、栄養過多の部署からは栄養を削いでいかなければならない。一つの身体に対して相反する治療を施すのはよほど慎重でなければならない。といって時間をかければ病状が悪化してしまうのもわかっている。計画の綿密な組み立てと実行、その裏付けの三要素をリンクさせながら、確実にリードしていくのが当面、私にかせられた役目だ。
社長の飯島隆はいった。「構造改革を進めたかったがノウハウがない。企画設計を紹介され、話を聞き、実際にコンサルを行っている同業他社の見学もした。それでも、私どもで実際にうまくいくかどうかは未知数の部分がある。しかし、状況手をこまねいているわけにはいかない。何らかのアクショを起こすときだと思っている」
私は、ノウハウとは三要素をリンクさせる力そのものだと思う。構造改革によってコストダウンは図れる。想定した売上に届かなければ、「特割」で補填することもできる。不動産業のスタンスに

立てば「空気を泊めるよりは、たとえ1円でも利益を出す」といった姿勢は、だれでも理解できる
けだし、それらの一つひとつは方法であって、目的ではない。目的はプロフィット――利益を創出することである。方法はテクニックであり、ノウハウなどと呼ぶには軽すぎる。いくつものテクニックをからめあわせ、それによって結果を出すのが真のノウハウだと、私は考えている。
同時進行でやらねばならないことは山積している。設備関係の整備はもとより、研修だけでもルーム、フロント、事務所、パブリック営業、清掃や点検などの館内運営と多岐にわたる。それと計画に対して遅れている自動給与システム……私は改めてスケジュール表に目を落とし嘆息した。
そのとき会議室の外に人の気配が起きた。部門長会議の始まりだ。
(企画設計・松本正憲=文中敬称略)

(つづく)

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