「旅館再創業」 その2
一気呵成と慎重のはざま
Press release
  2004.06.12/観光経済新聞

 構造改革を進めるのは生かな作業ではない。
かつて「痛みを伴う」という宰相の言葉に、それまでの政治家が語る公約とは違う新鮮さと可能性を覚えた。ところが現状は、痛みだけで「構造改革」の言葉に錆びを生じさせる罪まで出始めている。だが、そうした感覚は、現在すすめている清風園での案件に一切あてはまらない。決して、我田引水ではない。そういい切るだけの根拠と確信が、私にはある。メーンバンクがその点を理解してくれているのも心強い。
そして、社長の飯島隆もいう。「痛みが伴ったうえ一向に改善がみえない構造改革ではなく、やるならば一気に進めなければならないだろう」と
計画の推進には、会議だけでもいくつかのステップを踏まなければならない。まず、計画案についての役員承認が必要だ。今春からプランの策定にはいり、現状では、この第一ステップはクリアしている。
もっとも、5月18日までに済ませてほしかった役員による社員の個人面談は、計画どおりに運ばなかった。資金需要の関係から銀行へ計画の進捗状況を説明するときに、遅れは好ましいものではない。資金繰りにも連動しているのだ。
役員会での議論は、侃々諤々といわないまでも、コンセンサスに至る道は平板なものでなかった。
「計画通りに進めたい」との思いがある一方、「自分たちが完全に自信をもつに至っていない以上、現時点での強行は…」といった慎重論もでる。そして「どちらも一理あるので…」と三者三様の思惑が交錯する。こうしたプロセスは、ここ清風園に限ったことではない。むしろ、大多数の旅館が同じ体質をもっている。それゆえに時宜を逸することもある。逆にコンサルタントの意見を鵜呑みにした拙速の結果、改善どころか悪化させてしまった悲惨なケースさえある。
副社長の飯島寿一はいった。「役員として自分の言葉で社員に説明しなければならない」と。この姿勢は確かに必要だし歓迎すべきことだ。しかし、漫然と待つだけでは、私の任は果たせない。過ぎてしまったことをとやかくいい、取り戻せない時間を「ないものネダリ」するような愚は、もとよりなかった。
「現時点での1カ月の遅れは、やむを得ないでしょう。ただ、この状態が2、3カ月も続くようであれば計画の推進は難しい」
私はそういわざるを得なかった。計画の遅れをいかにとりもどすか、それが当面の課題になってしまった。その瞬間、わが社のスタッフの顔が浮かんだ。
スタッフを動員したプランづくりは、時間と労力を必要とする。そのプロセスは、クライアントが考えている以上に手の込んだ作業だ。修正にしても、そこだけの手直しでは済まない。タイトな時間のなかで叱咤激励する自分を思い浮かべると、つい苦笑せざるを得なかった。
結局、個人面談の後に実施する予定だった人件費がらみのシステムは、次の給与締日である6月×日までに面談を済ませ、7月×日分からの変更に計画を修正することになった。
構造改革では、これまで人手に頼っていた部分の一部を設備に置き換えてコストダウンを図るそれによってセクションごとの連携や、パート化など関連する陣容も変更しなければならない。このため、すでに導入を決めた設備のリース料なども6月から発生する。給与関連のシステム稼動が遅れれば、キャッシュフローにも影響が出てくるのは必定だ。私の脳ミソはその修正を超高速で始めていた。
(企画設計・松本正憲 =文中敬称略)

(つづく)

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