新 旅館が変わる赤字が消える その38
建前経営から本音経営へ脱却
Press release
  2004.05.15/観光経済新聞

【チャートの概括】 経営の安定のためには営業利益15%以上の利益ストラクチャー構築が不可欠であり、それには一般販売管理費の最大級発生科目である人件費管理がポイントになる。ところが、制度としての給与制度が未整備であるとともに、収支への関心が高いものの内容が精査されていないといった現実を診断グラフは示している。とりあえずその場をすます「デキレース」の問題を前回指摘したが、現状打開のためには「建前経営から本音経営へ脱皮」が必要なことを今回の診断グラフも物語っている。
【基本課題】 ここでの重要ポイントは「等級給与制度の採用」にある。労働集約型産業である旅館・ホテルでは「頭数」(業務遂行社員)と「スキル」(頭数ではない管理者)を分類したうえで、「労働分配率にみあった人件費パーセンテージ」「勤める者が満足する給与額」の2点を両立させることが欠かせない。ところが現状は、スキル(部長・総支配人クラス)といえども年収600万円ぐらいなのに対して、頭数の中に500万円ぐらいが存在している。後者にとっては居心地がいいだろうが、命がけの勤務が不可欠なスキルに執着心が芽生えないことになる。つまり、前述の2点を両立させる制度の確立が急務だといえる。
【改善手順】 設問の「部門別収支表の採用」は他の項目に比べて実施率は高いが、精査という点で十分といえない。それが「組織の見直し」や「人事権の現場委譲」といった項目の回答率が低いことに表れている。実例をあげると、総務部門にリネンや客室清掃などの部門が置かれているケースが少なくないのも、その表れの一つといえる。これでは労働分配率において明らかに不整合が生じてしまう。また、部門長はカンパニー長(部門社長)であるという発想も欠かせない。人事権の委譲が完全に行われれば、「人員増加=人件費コントロール不能」が明確になるからだ。つまり、制度としての「等級給与制」が整備されない状況下で「部門収支表」だけを実施しても、結果として建前が先行して本音が生まれないことになる。換言すれば「経営目的が手段化している」わけであり、その改善にはこれら4項目を見直し、整備することである。次に「退職金変更計画の作成」と「積立積算書の作成」が課題となる。例えば、トップ管理者として勤めた期間が10年と3年の人が、最終役職・給与ベースだけを基準に「同一退職金」であるのはおかしい。ところが、現実はそうしたケースが多分にあり、変更計画が必要になる。発想の基本は「利益貢献度」であり、それを具体化するには、貢献によって生じた利益を一定の率で積み立てておく「積立積算書の作成」である。これが経営目的を達成する要因となる。
(企画設計・松本正憲)

(つづく)

  質問箱へ