【チャートの概括】 低成長下の最優先事項は「一定の人件費で経営可能な企業体質への変革」を実現することである。ところが現状は、「経営が苦しい→給与を下げる→社員をパート化する」といった図式が氾濫している。これでは、経営のカギを握る重要素の一つである人事施策が場当たり的になり、状況の改善どころか現状維持すら難しくなってしまう。結果として人事評価が適正に行われず、計画的な人員採用も図られない。診断グラフは、そうした現状を如実に物語る歪な形を示している。言葉は悪いが「なりふり構わず」の構図から脱却することが、経営者に問われていると知ることこそ肝心である。
【基本課題】 ローコスト経営へ向けた構造改革において、運営体質面での基本になるのが各部門の全体を俯瞰した「業務解析」(作業項目とそれに関わる時間の抽出、それらを踏まえた部門別の作業変更)と「社員・パート領域設定」(作業レベルを検証し、社員とパートの作業領域の明確化)である。これが適正になされていなければ、他の諸施策は無力化してしまう。ところが設問回答で履行率の最も低いことが診断グラフに表れている。いわば、「1+1」の計算ができないのに「100+100」の計算で苦慮しているような状況である。したがって、まず「業務解析」を行い、それを踏まえて作業の「平準化・単純化・標準化」を図ることが急務である。それによって作業力量にみあった「社員・パート領域設定」、さらに「業務分掌規定」(分担作業をスムースに遂行するうえで不可欠な各作業の領域と責任範囲の明確化)もおのずと判明してくる。
【目的達成への課題】 基本課題へ適正な対応が講じられると、「人事評価制度の採用」(社員個々の業績に応じた評価により労働意欲と帰属意識を高める施策)を前提にした「社員待遇の複数化」(会社・社員の相互メリットを念頭に据えた社員・嘱託・パートなど雇用体制の確立)、あるいは「総支給給与の見直し」(絶対金額を前提に会社負担の法定福利費用を含む総支給評価を認識させる=一定の人件費で運用)の方向も明らかになる。これによって運営体質の要諦である「人員採用計画」(時系列的な計画にのっとった社員・パート・アルバイトの採用)が確かなものとなる。構造改革へ向けた諸施策において肝心なことは、全体を俯瞰したうえでツボを押えることである。喩としての妥当性を別にすれば、地球上で最も硬い物質であるダイアモンドでも、ある1点を叩くことで容易に割ることができる。構造改革もこれと似ている。逆にポイントがずれていると講じた諸施策も効果が発揮できない。今回の診断グラフは、そうした現状への警鐘とみることもできる。(企画設計・松本正憲)
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