【チャートの概括】 ここでの設問では、商品仕入原価と接客消耗品原価に大別して現状把握を試みた。診断グラフが示す図形は、従来の経験則から必要とされる事柄は相応に実施しているが、目的に対する手段(社内システムなど)が未整備で、目的の形骸化がみてとれる。換言すれば原価管理が成されていないのに等しく、原点に基づく早急な原価管理の必要性を物語っている。
【商品仕入れでの課題】 基本は安定した売上と原価管理を念頭に置いた仕入施策である。診断グラフでは半数超が「定期相見積(A)」を実施しているが、実際には「何のために相見積か」の原点を忘れている。例えば、新規商材は相見積を実施するが、継続商材の相見積をどこまで定期的に行っているか(馴れ合いでなく)は不明瞭だ。また、取引のない業者を加えた相見積の実施も限られる。現実に即した課題を3点ほど指摘しておこう。1点目は厨房にかかわる仕入を「本当に安い価格で仕入れているか」ということ。実際には多品種少量仕入の現実が、高額を承知で仕入れるジレンマを生み出している。これに対しては、一定期間中に必要な商品を一括契約する「蔵仕入方式」の検討・採用が急務である。また、蔵仕入方式は厨房に限ったものでなく、他セクションでも必要とされる。2点目は売店売上の「ABC分析」である。不良在庫の一掃・売れ筋商品の品揃え・利益率向上へのチェックであり、1カ月に1度は行う必要がある。3点目は飲物の捉え方である。例えば生鮮食品と同一視すれば、「当館のビールはすべて製造から2週間以内」といった鮮度による差別化を図り、経営戦略的な展開も可能である。
【接客消耗品での課題】 接客の延長線上にあるアメニティの現状は、「画一的」の言葉に収斂する。しかし、経営者には「高額のお客様にはいろいろなアメニティを提供したい」との意識がある。海外の高級ホテルでその快適性を体感しているからだ。問題は、アメニティ充実が可能でも『入れ込みシステム』が未整備だということ。複雑なアメニティの入れ込みには相応のシステム整備が欠かせないが、経営者は「パート力量の不足」と捉えてしまう。画一打破にはシステム整備がカギといえる。また「宿泊単価と消耗品可変」(高額客・低額客で消耗品も可変的に対応する体制)への対応意識もあまり高くない。これも画一化要因の1つ。旅館経営は「施設」(アメニティを含む)「料理」「サービス」の3原則で価格に応じた商品を作る作業である。何についても「手段の目的化」といった状況はしばしばみられる。仮に相見積が形骸化しそれ自体が目的化してしまえば、原価管理の機能は果たされなくなってしまう。診断グラフはそうした状況への警鐘といえる。
(企画設計・松本正憲)
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