【チャートの概括】 「戦略的なパートの採用はローコストオペレーションのカギである」との認識から、@良質のパートを安定的に確保することA採用したパートを定着させること、といった二つの視点から現状を捉えた。ところが診断チャートに示された図形は、場当たり的な実態を物語る結果となった。計画性の希薄さだけでなく、雇用したパートの処遇など体制も未整備で、確保と定着にミスマッチが生じてパート化の効果を阻害している。その根底には「パートは社員の補助」あるいは「この仕事はパート」(例えば食器準備、客室清掃など)という既成概念が幅を利かす現実が垣間見られる。また基本的な課題として「母集団形成」にかかわる認識がある。例えば、3人の欠員が生じて募集をかけたときに、2人しか応募がないと全員を入社させてしまう。これではパートの質は向上しない。3人必要なときは、10人以上の母集団形成があって、はじめて「経営者の目的とする人材が集まる」との認識が欠落している。この概念は社員募集にも欠かせないものだが、実際にはその意識が希薄で「受身」の状況が多くにみられる。
【基本課題】 パートの公募に際して「どの媒体を用いるか」の勘所は、経験を基にノウハウ化していると捉えているようだが、ポイントとなる母集団形成の概念が乏しいことから、それにふさわしい媒体研究がなされていない。また、地域相場の研究を行っているとしているが、実際には最低賃金など「いかに安く」の発想が前提で、社員の力量と同じ能力に対して同等の賃金を支払うといった発想はない。これでは、言葉は悪いが「安かろう・悪かろう」の域をでないのに等しい。その結果がもたらすものは「旅館は魅力のない職場→良い人材が入社しない→賃金は上げられない→……」という悪循環のループである。
【課題の連鎖】 高質なパート母集団の形成には、自然退社も念頭に据えた「年間の採用計画」の策定、公募媒体の決定、地域相場の検討が不可欠となる。さらに、パートの位置づけとして前回指摘した業務のレベル(地方大会、県大会)による区分けも必要で、「社員・パートの責任の明確化」といった社内体制の整備も前提条件の一つとなる。これらの条件を踏まえて定着化に向けた5つの制度(月給製給与、能力給制度の採用、1年間単位変形労働時間、個人面談、特定休日勤務協力制度)の実施が欠かせない。肝心なことは、「入社するまでは給与が最大の関心事であるが、入社後は仕事に対するやり甲斐と働きやすさが給与よりも優先する」といったモチベーションの変化を知るべきであり、逆にそうした変化を起こさせないような職場は、それ自体が問題だと知るべきである。
(企画設計・松本正憲)
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