【チャートの概括】 人事考課の適正化を阻む要因として、前号で「デキレース化」の問題点を指摘した。今回の診断グラフは、そうした実態の背景を浮彫りにしている。個人の自己目標や業務目標の設定、達成率の自己認識といった規定は相応に整備・実施されているものの、そうした目標達成を下支えする一般職や総合職の教育計画、個別社員業務カルテ、方向性の指導や問題点を是正するカウンセリングなどの社内システムが、ほとんどの場合に未整備である。これでは、掛け声ばかりで個人まかせの"絵に描いた目標"であり、社内体制そのものがデキレースを助長していることを、診断グラフは警告している。
【基本課題】 この問題で最初に考慮しなければならないのが、労働生産性の見極めである。一例をあげると、タクシー運転手の年収は、勤務暦6カ月でも20年勤続でも同じである。これは、規定勤務時間内の労働生産性が同じだからである。一方、旅館ホテルをみると例えばフロント社員の年収は、入社5年目ぐらいでお客様のウケもいい若手女性社員が250万円程度なのに対し、年功序列で慇懃無礼なだけの年配社員が500万円だったりする。労働生産性の面からは300万円が限度の業務において、こうした成果(お客様評価等)と給与のアンバランスが、ひいては経営面でのマイナスを生み出している。ここで留意しておかなければならないのは、社員個人が抽象的ではなく実際の業務に照らした到達目標を定め、会社側も個々の目標達成努力を促す仕組みや目標に対する適正なジャッジを与えられる体制づくりが不可欠だということ。それが明確でない結果がここでの課題の根源に潜んでいる。
【改善方法】 目標の設定と達成を裏打ちするのが、育成計画(一般業務者=多機能化、総合職社員=幹部育成)、個別社員業務カルテ(入社時からの業務経過)、カウンセリングなどの社内システムである。したがって、基本課題の改善では、第1ステップとして、ワーカー(一般作業者)とマネジメント者(総合職社員)の人数割りをどうするか。端的にいえば、頭数で押す接客作業と、スキルが決め手のマネジメントといった認識を明確にもつこと。それを会社の実情に照らしながら、単なる頭数そろえではない適性陣容を見定める。第2ステップは、部門や作業内容(錬度ほか)を勘案した年俸制の採用である。ここでは、一般作業職については上限と下限の設定、マネージャー職については社内カンパニー制度で提言した利益による年俸評価などを考慮する。第1・2ステップを踏まえ、さらに会社の目標を明確にすることで、人材計画の根幹が定まり、デキレースではない目標達成の仕組みが稼動する。
(企画設計・松本正憲)
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