【チャートの概括】 前2回の診断は、経営マネジメントの全体像把握と実践における問題点を洗い出したものだった。これらに内包される問題でもっとも基本といえるのが、予算未達への対応策である。その最終的な予算達成への是正措置といえるのが、今回の特割である。ところが診断チャートは、ほとんどの場合に実施されていない現実を如実に示すものであった。ただ、特割が単なる値引き・安売りと混同されていることから、現状と実勢のチャートで一部に乖離がみられる。マネジメントの上で明確な解析、戦略的な位置づけがなされていなければ、そうした捉え方がされることも否めない。しかし、それでは意味がない。特割と一般的な安売りの違いを一言でいえば「客待ちからの脱却」である。安くして待っているのではなく、予算未達部分を明確に把握し、積極的に打って出るのが特割である。
【基本課題】 特割を実施する際の一連の流れは、前2回で示した先行予約の状況を解析した上で「割引率・月日の決定」をすることで始まる。さらに、確実に集客につながる客層・地域の絞込みとともに、効果率アップにつながる内容を盛り込んでいるか否かを検討したうえで、訴求媒体を選定・実施することになる。媒体には、雑誌、新聞・折込チラシ、インターネットなどさまざまだが、いずれを選択するにしても訴求対象の絞込みと内容チェックを、戦略的な面から捉え直すことが、現時点の急務である。
【個別課題】 客層・地域の絞込みで欠かせないのがDMリストである。これについては、多くの場合に「顧客名簿」を備えていると回答している。だが、一般論としては、よほどの理由がない限り、次の旅行では他の地域・旅館を求める。予算に対して未達の部分をリカバリーするには、そうした消費者心理も押えておく必要がある。その意味では、回答の対象となった自館の顧客名簿だけでは条件を満たせない。アライアンスなど別の視点が必要となるが、これについては機会を改めて述べることにする。肝心なことは、月間財務収益の検証である。言い換えれば、特割を実施した際には、効果を必ず測定しておくことである。集客人員のみで効果を云々する傾向が強いが、売上と支出のバランスを正確に解析しておかなければ効果を測定したことにはならない。また、経営マネジメントに立脚した比例費・固定費の観点から、両者を相関させた「財務収益」が検証されていなければならないともいえる。さらに、検証結果が次の「一手」を打つ基本的なデータであることも忘れてはならない。検証結果を生かす手立ての確立である。これには、ISO的な「記録」の発想が欠かせないことも改めて指摘しておきたい。
(企画設計・松本正憲)
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