新 旅館が変わる赤字が消える その24
人材育成の目的を明確にする
Press release
  2003.12.20/観光経済新聞

【チャートの概括】 労働集約型産業では「仕切る人」と「仕切られる人」がいる。現状は、各部門に運営・要員管理・教育まで任せているが、仕切る人のスキルが低ければ結果はおのずとみえてくる。一方、人事の役割は給与計算もさることながら、人材を戦略的に捉えて配置していくことにある。診断グラフが示した実情は、そうした認識の乏しさを物語っている。換言すれば、目的に対して手段があるわけだが、状況は手段が目的化したもので、極論すれば単に教えているのにすぎない。まず「何のために教育するか」を経営者が明確に示す必要がある。
【基本課題】 教育者の任命、新入社員教育日程表、年次社員育成計画作成はおおむね実施されているが、他の項目は実施されていない。例えば、力量一覧といえる「個人別職務技術票の作成」がないことは、担当者は分かっているのだが、会社にはディスクロジャーされていないことを意味する。いわば、部門内で人材の囲い込みが行われているのに等しく、そうした慣行がひいてはクレーム隠しといった体質を生み出してしまう。診断グラフで低い回答率だった項目については、早急な改善が求められている。
【個別課題】 チャートでは、教育者の任命を多くで行っている実態を示しているが、実際にはマニュアルが整備されていないために、教える側が大変なだけでなく、教えられ側も分かりづらく、結果としておざなりになるなどの問題が生じている。また、教える側のスキルアップにもつながっていない。極端な例では、AとBの担当者で教えることに違いがあることから、受ける側に混乱が生じ、それが辞める理由のひとつにもなってしまう。そこに「死に人件費」が発生する。逆に教え方が理想的であれば、通常は1カ月の訓練を必要とする客室清掃を5日、基礎習熟に3カ月かかる接客を1カ月に、といった短縮ができる。そのためには、それぞれの技術の修得度をチェックするテストが必要であり、それによって個人別の職務技術票も作成できる。そして、問われるのは「本当の社員教育を行っているのか否か」ということになる。例えば、面接時を想定すると、会社側が「将来の幹部」といったところで、本人は「自分に向いた仕事かどうか見定められない」といった状況であり、中には転職を前提にしている場合もある。したがって双方に、3カ月、1年、3年……10年といった見極めが必要であり、そうしたすり合わせに対応した「年次社員教育計画」が不可欠になる。そして、各見極め段階で会社の評価と本人の希望をすり合わせし、次のステップへ進む。つまり、全体を俯瞰した教育のあり方を再検討することが、結果としてクレームの解消には欠かせない。
(企画設計・松本正憲)



(つづく)

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