新 旅館が変わる赤字が消える その15
電算化の一方でいまだ数読み
Press release
  2003.10.11/観光経済新聞

【チャートの概括】 診断設問では、業務運営の電算化で6項目(調理、配膳、食器・備品管理、シフト作成、労働管理)についてシステム化の度合いを聞いた。結果は診断グラフの「点線」(実際の回答)に表れているが、作業現場の実態から捉えると「実線」(筆者の調査データ)のようになり、回答との間に大きな違いがみられる。フロント・事務部門ではコンピュータの導入も進んでいるが、ローコストオペレーションの観点からは疑問視せざるを得ない。これが意味するところは、コンピュータを導入しているにもかかわらず、予約データから各部門での作業指示などの諸データが一元的に管理・加工されず、現場事務の軽減化や指示事項の明確な伝達が図られていないことを物語っている。逆に、それぞれの作業現場では、相変わらず責任者が「数読み」などの初歩的な作業を繰り返している。いわば、船頭が多すぎる弊害、例えば1部門の読み違いが他部門へ大きな影響を及ぼす悲劇を、いまだに繰り返している。また、回答グラフがヨコ扁平の形を示しているのは、厨房や棚卸などを当初から度外視してかかる旧弊が、厳然とみてとれる。
【基本課題】 ローコストオペレーションにおける電算化の狙いは、スピード化や作業者の業務軽減が最重点ではなく、企業運営で不可欠な人件費の軽減など具体的な経営貢献にある。「何を電算化し、どのような効果を導き出すか」について、もう一度見直すことが焦眉の急であることを、診断グラフは示している。
【個別課題】 6項目のうち調理システムは、原材料の発注や仕込みの指示、原価計算や厨房人件費(社員・パートの作業区分)の管理などが目的。ところが、業務の専門性から暗黙のうちにアンタッチャブルの意識が働き、経営側をして「この部門のシステム化が難しい」とする実態が診断グラフに表れている。パートですむ作業までが難しく扱われるケースも少なくないが、これらを払拭してシステム化の全体像を捉えるには、基本となる料理のレシピ化が急務。同様に食器・備品管理では、棚卸などが経験を踏まえた特殊業務と見なされ、電算化は備品の台帳程度に留まる。保管ルールの厳守と連動させるシステム構築が当面の課題。他の4項目も、コンピュータ化によって実現されるべき諸データの一元的な管理・加工よりも、定型化された(部門間のリレーション発想はないが)アウトプットばかりが目立つ。いわば、手書きを清書した域にとどまっている。パート化による経営のスリム化、スムースで確実な客室運営、損耗率の的確な把握まで目指した食器・備品管理、作業指示を徹底させるシフト作成、労働時間の管理・集計などを念頭に、再度コンピュータ化推進の実態を見直す必要がある。(企画設計・松本正憲)


(つづく)

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