新 旅館が変わる赤字が消える その11
基本の整備なしに応用は不可
Press release
  2003.08.30/観光経済新聞

【チャートの概括】 食器類の管理を対象とした診断グラフは、「管理不能」やそれに近い状況に陥った姿を露呈している。チェック項目として掲げた@マニュアルによる物品管理A棚卸B破損管理C破損率減少会議D物品管理者の任命――の中でとくに1、2点の評価点が低かったことは、ソフト面の整備不足である。これが意味するところは、破損など目に見える部分には注意をはらっているものの、棚卸など従来の習慣的な形でなされている作業に潜むムダなどは、ほとんど放置されていること物語っている。いわば、目に見えるコストダウンを「100+100」の計算に喩えれば、作業の基本である「1+1」の周知徹底・ルール化を放置したまま高度な計算ばかりをさせているのに等しい。これでは抜本的な改善がなされない。
【基本課題】 診断結果に示された基本的な課題は、マニュアルによる適切な管理を早急に図ること。食器類は、メニューや季節によって使い分ける必要性から多種多様なものが用意されている。仮に写真付の台帳を整備しても、実際には定められた収納場所にそれが見当たらないケースが頻発している。収納定位置が守られない理由は、現場の実情を無視した「借物マニュアル」を、本来のマニュアルと勘違いしていることに他ならない。「現場にすべての答えがある」といった観点から、実情にあった借物ではないマニュアルの整備が基本的な課題となる。また、収納の不適切による「死蔵」が経営資源の浪費であるといった基本的な認識の周知徹底は、やはりマニュアルの役割といえる。
【個別課題】 食器の棚卸は、「どれだけの種類」「正確な数量」あるいは破損や紛失などのロス率を把握するうえで、月に1回は行わなければならない「不可欠=大切」な作業となっている。実際には「大切」な作業であるために、特定の人間に占有されることで非効率(賃金の浪費)がまかり通っている。現場の実情に即したマニュアルによって収納が完全履行さえされていれば、手の空いている新人でも台帳をもとに棚卸は可能である。基本課題のマニュアル整備と連動する個別課題である。また、小さな損耗の積み重ねによる大きな損失を防ぐ破損管理や破損率減少会議、物品管理者の任命についても型どおりのものはあるが、根底のマニュアル整備が不十分なために、仮に破損防止を強調しても「スローガン倒れ」のような状況が多く出現している。言い換えれば、目につく部分でのコストダウンを強調しても、根底にある基盤が未整備であれば砂上の楼閣に等しく、黒字経営への効果は生まれてこない。診断グラフが警鐘を鳴らす目的の不明瞭と手段の未整備によるアンバランスな状況は、早急な手当てが必要である。
(企画設計・松本正憲)

(つづく)

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