「旅館を黒字にするために」 その40
「スーパー・アンケート」 |
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前号で自館の「レベル」に触れた。捉え方としてはいくつかの視点があるものの、最終的には経営者の定める品質水準であり、あるいは伝統に培われた接遇内容ともいえる。
ここで問題となるのは、「低価格志向が一般化してしまい、すべての面で経費増が収益を圧迫している」という現実である。人件費を切り詰めていけば、従前のサービスを提供できないのも当然である。とりわけ、人的な接遇において「手が回らない」「教育・訓練が十分にできない」などの内実が、接遇現場で表面化する懸念がある。このため、前述した「利益ストラクチャー」の発想によって社員のモチベーションを高め、一定のレベルを保持する必要がある。しかし、消費者の大勢は低価格を志向しており、そこに従前の姿と現状を対比した場合のジレンマが生まれる素地もある。
では、自館のレベルをどう捉えるか。一つの発想として、ベースを利用客に置く方法が考えられる。これまでも「お客様第一主義」を掲げているケースが少なくない。これについて筆者は、もとより異論を挟むものではない。ただ、こうした「お客様第一主義」での「原点」が何であったかである。極端な場合、「フレーズのみを移植した」としか思えないケースに遭遇することも決して珍しくなかった。それを端的に示しているのが、新聞の投書欄などにしばしば登場する「消費者の声」である。
例えば、最近では一部で見直しがはじまっているが「食べきれないほどの豪華な料理」をはじめ「煩わしく感じるほどのサービス」「華美に走りすぎて戸惑いを覚える施設」「慇懃無礼な態度」など枚挙にいとまがないのも事実である。消費者が「何を求めているか」を把握し、それに合致させることが「お客様第一主義」の出発点ではなかったのか。列挙した声の一つひとつは、利用客の立場ではなく、提供する側の論理に基づいた結果でもあった。そうした接遇や施設を求める消費者もいる。ならば、その層だけをターゲットにすればいいわけだが、それでは経営が立ち行かない。そこに、エージェント依存の販売手法や経営体質もからんでくる。言葉を換えれば、施設個々における販売力の低さが、自館のレベルやそれにみあったターゲットの選択・決定までも外部に依存してきた結果といえなくもない。
販売において、エージェント依存で一〇〇パーセント充たされているならば、前号で触れた「平日特割」や地域でのアライアンス、あるいは地域を全国に拡大したアライアンスを考える必要は当面ないだろう。しかし、充たされていないとすれば、その現実を打開するための「エージェント・プラス・アルファの販売」が必要となってくる。
ここで必要なのは、単なるフレーズとしてではなく、本当の意味で消費者の立場から「お客さまは何を求めているか」を把握することである。その切り札となるのが、いわゆる「アンケート」である。もっとも、これを「切り札」などといえば、当たり前すぎて笑われそうなことは、筆者も熟知している。それほど一般化したものであるが、現状をみる限り大半は「お客さまの声を聞く」といったレベルにとどまっている。それによって「不都合な点を改善する」などの意識は大切だが、低価格化の進むなかで「提供するサービス内容と料金のバランス」が齟齬をきたしている点を的確に捉え、具体的なアクションへ転化させることが、どこまで行われているかに問題がある。
つまり、改善のヒントを得て「どう生かすか」の最終的な目的を果たすために、ヒントになり得る「アンケートフォームをどのように組み立て」「より多くの意見を得るために回収の促進を図り」「客観的な分析を加えるデータ化をどう進めるのか」について、どこまで掘り下げてきたかに疑問を感じている。
この点で大切なことは三つある。第一は、自館の実情を的確に把握するための設問づくり。第二は、客観的なレベルを把握するための物差しづくり。第三は、回収促進と分析を容易化する手法の構築である。他館の真似では不十分だが、といって他館と比較した自館の客観的なポジションを知る要素も充たされなければ、独りよがりの陥穽にはまる危険が大きい。
また、こうしたアンケートは、多様な方向性を埋蔵した宝の山ではあるが、宝を掘り出すには人手と資金がかかる。そこで筆者は、前号で述べた「スーパー総務」のような「スーパー・アンケート的発想」が必要だと考えている。アンケートをアウトソーシングし、客観データのみを自館にフィードバックさせる手法である。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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