「旅館を黒字にするために」 その39
自館の「レベル」の明確化を
Press release
  2002.02.09/観光経済新聞

 旅館・ホテルの黒字化へ向けて、本シリーズでは財務解析を中心にした経営の見直しを基点に、宿泊部門と不動産部門に対する明確な区分けの必要性をはじめ、さまざまな角度から問題を提起してきた。そして行き着くところは、いわゆるリストラによる人員削減から、人件費そのものを削減する段階に至った現状への提言として、「利益ストラクチャー」の概念を紹介した。また、具体的な手法の一つとして、総務関連部門の人件費削減へ向けたアウトソーシング策として「スーパー総務」の発想を提唱した。
 こうした諸施策は、デフレスパイラルが進行する現状の下では、是非にも手をつけなければならない点である。ただ、これらは経費の「出口」を再検討してきたものともいえる。換言すれば、仮に低価格を余儀なくされたとしても、企業としては利益の確保できる経営体質(黒字体制)をいかに構築するかを前提にした発想である。その意味では、状況に対して果敢に打って出る姿勢とは、方向性が若干異なったものといえる。
 また、こうした施策だけでは、やはり「ジリ貧」のなかで景況回復を待望する発想とニアセイムの危惧があることも否めない。方法を間違えれば「萎縮」につながるからだ。萎縮もまた、悪循環のループにはまり込む一因である。
 例えば、経費の節減を図る場合、手近なものとして広告宣伝費をカットする傾向が、多くの企業でみられる。消費者に知らさなければ売れないのは自明の理だが、「わかっていても緊縮せざるを得ない実情が一方にある」という意識が根底に横たわっている。果たしてそうなのだろうか。この場合、過剰な経費支出を引き締める必要性は確かにあるが、問題は経費予算の捻出方法に潜んでいる。
 前述した「低下価格に対応しても利益の出る仕組み」と同様に、どのような状況下でも広告宣伝費を捻出できる仕組みが求められる。そこには、財務解析に立脚した計画性が欠かせない。言葉は悪いが「ドンブリ勘定」の如き状態の中では、全体から捉えた「緊縮」はあり得ない。単に、華美に走っていたものを質素にするぐらいが関の山で、むしろイメージダウンの懸念さえある。必要なものは、状況のいかんを問わず確保できる仕組みが大切である。
 広告宣伝費はあくまでも一例に過ぎない。筆者自身、原状打開の究極は「販売促進による売上拡大」にあると考えているために例示したまでである。つまり、経費の出口に対して「入口」を拡大する発想が、黒字化を図るうえで両輪として機能しなければならない。
 そのための前提条件として「構造改革」による企業体質の改善が必要なのであり、この条件が不十分なままだと、販売促進にかかわる施策を打って出たとしても、結局はその場しのぎに終わってしまい、さらに低い価格設定へと泥沼に落込んでしまう。視点を換えれば、企業体質の健全化が、新たな試みを推進するうえで不可欠だということである。
 回りくどい言い方になってしまったが、「入口」を拡大しようとすれば、相応の経営資源を投入する必要がある。また、投入して即座に実効が得られるとは限らない。その間の「痛み」に耐えられる企業体質が整えられていなければ、結局はそれさえも徒労に終わってしまう。したがって、新たな施策を展開する前に、一定レベルまで体質の改善を図ることが前提となる。そのレベルとは、企業によってケース・バイ・ケースである。
 ここで問題となるのが「一定のレベル」である。このレベルとは、提供しようとするサービス内容を保つために必要な体質・体制を維持する目安ともいえる。いわば、旅館・ホテルの品質水準とリンクした経営のレベルでもある。肝心なことは、提供するサービス内容と料金のバランスであり、そこから派生する利用者の満足度をどのように保つかである。
 さらに、販売拡大の「入口」を考えた場合、レベル自体の客観的な評価が問題となる。例えば、本シリーズ中でも提起した平日の割引料金「平日特割」にしても、「高い休前日に対して安い平日」といった位置付けでは、訴求効果が期待できない。「どこが・どう安くなっているか」が消費者に伝わらないからだ。また、地域の一館でこれを展開しようとしても、値崩れ要因として他館への影響が懸念される。地域内や消費者の志向に合致した他地域とのアライアンスも必要となる。それらのベースとして自館の「レベル」を明確化することが、前提として求められるわけだ。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
(つづく)