「旅館を黒字にするために」 その37
外部委託で経営スリム化
Press release
  2002.01.26/観光経済新聞

 前号では、かつてのOA化の実情を例示して、総務部門でのアウトソーシングの必要性に触れた。結局のところ当時のOA化は、便利な機械を導入して作業者の労働負荷こそ軽減したが、そこまでだった。右肩上がりの景況のもとでは、雇用にかかわる職場環境の整備や取引上の必然性から、そうした設備投資に疑念を差し挟むよりも、トレンドとしてあるていどは容認する傾向が強かった。設備機器の導入を促すPR文書でも「合理化・省力化」はうたっていたが、導入経費に見合った「人件費の削減」にはあまり触れていなかったようである。しかし、現下の状況でそれは許されない。
 では、どのように対処するのか。目的は総務関連部門の人件費を削減することにある。方法としては二つの段階が考えられる。第一の段階は、総務・経理など事務系部門のパッケージ化されたコンピュータソフトを導入し、処理機能をアップさせて事務職の余剰労働力を他部門へ振り向けることで、間接的に経費を低減させる考え方である。ただし、この場合は相応のコンピュータ関連機器やソフトウェアの導入に伴う投資と、担当する作業者の育成などの諸経費が、多くの場合新たに発生する。このために想定どおりの人件費削減が果たされなければ、従前のOA化と同じ轍を踏むことになりかねない懸念が残る。
 第二の段階は、最低限の必要人員だけを確保し、例えば残業代をはじめとした給与計算など、一定のフォームで処理できるものをアウトソーシングする発想である。いわば、外部の事務センターに委託することで、これに携わる事務職員の人件費削減を目指す手法が考えられる。この場合、新たな投資や作業者の育成などの諸経費が発生しないだけでなく、ダイレクトに人員削減・人件費削減が可能である。余剰人員は、他の外注委託部門の内部処理化、あるいは人件費削減のためのシビアな選択など、方法は考えられる。
 要は、企業が利益を確保し、企業としての態を保つことが先決である。筆者は、これら部門の人件費削減に向けて、一足飛びに第二段階を目指すアウトソーシング化を「スーパー総務」の発想として提起している。
 どのような業務が外部へ委託できるかを考えてみたい。第一のジャンルが給与計算に伴う諸分野である。基本給のほか諸手当、残業代などの可変要素を含む煩瑣な計算処理は、毎月発生する事柄であり、賞与や年末調整なども定期的に発生する処理事項である。そのために、専任者をおくことが当然と思われてきた。だが、当たり前と思われてきたことを見直すことが、いま、最も大切なことだと筆者は考える。それは「当然イコール必然」とは限らない場合が多々あるからだ。
 第二のジャンルが、諸官庁への届出や折衝である。これには、社会保険・雇用保険にかかわる資格得喪届や異動変更届、健康保険・雇用保険・労災保険の給付申請や請求をはじめ社会保険算定基礎届、労度保険料年度更新手続ほかさまざまな事柄がある。常時発生する事項ではないが、必要性があることから当然のように専任者をおいている。
 これら二つのジャンルは、発想を転換すれば外部委託で経営のスリム化が可能である。総務関連としては、ほかに庶務や採用などの業務もあるが、当面必要なことは前記の二ジャンルにメスを入れることである。
 具体的な事例でスーパー総務化の効果をシミュレーションしてみよう。与件は、客室数百二十室、従業員百四十人(社員六十人・パート八十人)、年商十八億円規模を想定した。前記の二ジャンルと庶務や雇用に関わる対象人員は、社員(課長代理クラス)一人とパート一人である。人件費は、社員が年間四百万円、パートが百万円で合計五百万円を計上している。
 問題は、筆者が指摘を続けている業務内容である。どの仕事をどれだけしているかだ。ここでは、給与関係で月に七〜十日、社会保険・労働保険その他諸官庁関係で三〜四日、保健所・消防関係で若干、あとは庶務として社内会議で三〜四日、採用関係で一〜二日といった内訳になる。ここでも分かるように、前記二ジャンルが大半を占めているわけだ。
 一方、これらをスーパー総務の発想で外部委託をした場合、第一のジャンルは月額で六万円程度、第二のジャンルは、月ごとに発生件数は異なるが、諸届一件あたりの手数料を千〜三千円とみても、数万円の範囲で納まるはずである。つまり、二ジャンル合わせて月額で十万円前後、年間百数十万円で従来の五百万円に代替できる。この差は注目に値するはずだ。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
(つづく)