「旅館を黒字にするために」 その36
管理部門の人件費削減を
Press release
  2002.01.12/観光経済新聞

 人員削減から賃金の削減へといった新たな動きが顕在化しはじめている。前号で触れたワークシェアリングも方法の一つとみなされるようになってきた。ただ、これらの施策は、給与と社員の労働に対するモチベーションのバランスをいかに確保するかなど、まだまだ多くの課題を抱えているのが事実である。こうした状況に対して旅館・ホテルでは、人件費を「売上の二五%」で運営する「利益ストラクチャー」の必要性を、筆者は提言している。本シリーズの冒頭段階で述べた財務解析がその根底となっているわけだ。
 こうした必要性から、前号では、筆者の調査データをもとに、人件費をはじめ一般管理費などを含む財務の状況を洗い直してみた。その結果、「固定費」とみなされてきた「人件費」の対処が、状況打開の切り札になることを指摘した。そこで大切なことは、売上高に対する比率が、実際にはどれほどの数値になっているのかを把握することである。多くの旅館・ホテルでは、この人件費率が三〇%程度に達している。「利益ストラクチャー」の視点にたつと、これでは利益の確保が難しいといわざるを得ない。
 また、最近の傾向として、低価格志向がすべてに優先されるような感がある。しかし、そこにある「普段のもの」と「特別なもの」の使い分けが、消費者の意識の中で一段と明確になっていることが忘れられがちである。つまり、消費者が「特別なもの」と実感できれば、それが高額であっても購入している事実がある。そのために「普段のもの」は、低価格に抑えるわけである。支出できる金額に限度があれば、これは当然の帰結である。かつて、「パイの奪い合い」という言葉がしばしば使われたこと覚えているはずである。このときの「パイ」は、消費者個々を指したものではなかった。レジャー支出の中で、いかに観光旅行消費を確保するかであり、グロスで捉えた奪い合いであった。それが今日では、消費者個々をターゲットにした争いへと変化している。現下の低価格志向に合わせてサービスを低下させ、人員を削減して人件費を切り詰めていけば、どこまで行っても「特別なもの」として受け入れられず、低価格のスパイラルに落込んでしまう。
 これは、人件費の削減と矛盾するようだが、決してそうではない。筆者は「構造改革」において、パートを多用して一定の利益確保が可能なことをしばしば例示してきた。また、多くの旅館・ホテルですでに実行されているはずである。問題は、目的(経営方針)と売上に対する利益バランスである。
 余談ではあるが、外食産業の一例をあげてみたい。中堅の外食チェーン店で、徹底した「手づくり」にこだわり、消費者の心理を巧みに捉えて人気を得ているケースがある。そこでは、提供する料理の大半を主婦パートが担っている。下ごしらえは、日ごろ包丁を使い慣れている主婦パートに任せることで、人件費を大幅に削減した。価格は低価格帯に照準を合わせているが、それでも利益を確保している。人件費を抑え、一品ごとの単価を低くすることに成功した。同時に、単なる「薄利多売」の低価格志向ではなく、低価格でも消費者が「特別なもの」と感じられる要素を盛り込むことで、増売効果を導き出している。
 こうした事例がそのまま旅館・ホテルに当てはまるとは考えないが、各部門の作業内容と人件費のバランスを解析すれば、応用は可能なはずである。
 また、筆者が提唱する「利益ストラクチャー」の一環として、これまで不可能と思われてきた管理部門人件費の削減が、今後の経営改善テーマとしてあげられる。例えば総務部門である。
 一般に総務や人事部門は、非生産部分であるが、これがなくては企業の維持はできない。そのため、機械化による作業の合理化や省力化が図られてきた。一昔前のことではあるが、OA化が一躍クローズアップされたことがあった。現在、当時のOA機器は「あって当然」であり、昔の話を蒸し返す気は毛頭ないが、OA機器の導入に見合った合理化が本当に果たせたかを振り返る必要がある。
 極論をいえば、高額な設備を導入したにも関わらず、それに見合った人件費の削減がどこまで図れたかである。この問いに対して「大成功だった」といいきれる企業は稀である。そこに、合理化を掲げても人件費の削減が難しい管理部門の特殊性がある。ならば、それらをアウトソーシングすることで、管理部門の人件費を削減できる。詳細は次回に述べるが、パート化とは異なる人件費削減の途がそこに潜んでいる。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
(つづく)