「旅館を黒字にするために」 その35
「人件費」の新たな発送を |
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前号で述べた「業績評価給」を導入する際の基本的な事項として、人件費をはじめ一般管理費などを含む財務の状況を、平均的なケースから洗い直してみよう。売上高に対する比率は、筆者の調査結果によると概ね以下のとおりである。 (なお、科目については旅館・ホテルにおいて若干の違いはあるが、ここでは一般的なものとして捉えた)
【原価合計】
厨房、スナック・ナイトクラブ、売店、飲料などの原価合計は、売上に対して二五〜二三%であるケースが多い。また、部門別にみた原価率は、厨房が二〇%、スナック・ナイトクラブが五%、売店が七〇%、飲料が二〇%といったところである。
【販売費合計】
手数料、販促営業経費の合計は、売上高の一四・四%という数字が出ている。このうち手数料は八・四%、販促営業経費が六・〇%だった。
【人件費】
いわゆる給与(賞与・残業を含む)としての人件費は、三四〜三〇%に達している。
【一般管理費合計】
福利厚生関連費、接客消耗品関連費、水道高熱関連費、営繕施設管理関係費、雑費他一般経費関連などの合計は、二二〜一九%となっている。内訳は、福利厚生関連費が四・二%、接客消耗品関連費が五・三%、水道高熱関連費が五・五%、営繕施設管理関係費が一・七%、雑費他一般経費関連が五・三%などである。
これらを踏まえた荒利益は、九五・四〜八六・四%であった。
このほか、原価償却が二二・二〜一五・〇%、支払利息は一〇・〇〜四・五%となっている。こうしたことから、経常利益はマイナス二七・六〜マイナス五・九%。つまり、赤字である。
さて、こうした比率だけを数字で捉えても詮無い話でしかない。この数字をどのように解析するかである。
まず、原価合計からみてみよう。厨房をはじめとする原価は、入込み(売上)に比例して可変する。いわゆる比例経費である。売上が減少すれば合計額は低下するが、基本的な構成比率に大きな変動はない。販売関係での手数料は、売上の変動に比例して増減する。しかし、販促営業経費は概ね固定費的な要素で一定額を必要としている。
人件費は、一般的には固定費と捉えられているが、これには後述する新たな発想が必要である。
一般管理費のうち、消耗品は売上高の変動に伴って可変する比例費だが、他の科目は概ね固定費である。このほか、減価償却や利息も固定費として大ぐくりできる。
さて、以上を踏まえたとき、原価合計、手数料、接客消耗品などが売上高に連動する比例経費であり、他の科目は固定経費とみることができる。このうち比例費は、額面こそ可変するものの、全体の構成比としては固定要素にしばられている。この構成比率を変えることは、クオリティと大きく関係してくる。
また、いわゆる固定費は合理化などによってある程度の改善も可能であるが、これらも品質維持などの基本的な要件によって手をつけるには慎重でなければならない。そうなると八方塞の感が否めないが、最後の切り札となるのが「固定費」とみられる「人件費」である。
人件費については、すでに等級制、年俸制、業績評価などの諸施策を提起しているが、ここでは計算の便宜上、年商十億円規模を想定して数字をあてはめてみよう。
第一の条件が「売上高の二五%」として、十億円に対して二億五千万円が人件費の大枠としての原資である。これに対して年商が一五%ダウンした場合、人件費が固定であれば二億五千万円は売上の三〇%を占めることになる。一五%ダウンしたときの「二五%」は、二億一千三百万円である。三千七百万円が不足する。そうなると、前々号で指摘した適正な陣容に手をつける人員削減が行われることになる。もちろん、売上高の可変を考えたとき、削減は当然の帰結と割り切ることもできないわけではないが、それでは絶えず陣容が流動することになる。
次が「年俸制+業績給」における「八〇%想定」である。単純に計算すれば、二億五千万円の八〇%は二億円である。残る五千万円を業績評価の原資にあてた場合、仮に年商十億円の想定が一五%ダウンしたとしても、会社側の負担はなくなる。また、二五%想定そのものが、会社側の利益を確保したものである以上、若干の黒字をキープすることは可能である。もちろん、ダウン幅が小さければ、社員に分配する業績評価分も増額されるわけだ。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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