「旅館を黒字にするために」 その34
妥当性ある「業績給」を |
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現下の危機的な経営環境においては、人員削減が限界に達して賃金そのものを削減する動きが一般の企業に出始めている。これは前号において新聞報道を紹介したとおりである。また、ワークシェアリング(労働の分かち合い)についても本格的な研究や導入が始まりつつあるなど、経営と雇用(賃金)にかかわる議論は、もはや避けては通れなくなっている。
しかし、現実問題として賃金の引き下げは、決して容易なものではない。再三指摘したように、社員の労働に対するモチベーションを低下させない妥当性が不可欠だからである。余談ではあるが、ワークシェアリングのデメリットとして、現実的な金銭面の減少だけでなく、労働意欲の低下が懸念されているのも事実である。
いずれにしても、ここで考えねばならないのは、こうした対応を緊急避難的に捉えるのではなく、経営の根源的な視点から洗い直してみることである。例えば、しばしば聞かれる話に次のようなものがある。
「この体制でこれまではやってこられた。ところが売上が下がったために人件費の負担が大きくなってしまい、それにみあった人員の削減を試みたが、売上がさらに低下してしまい、もはや打つ手がなくなった」
このケースでの問題点を極めてシンプルに整理すると、従前の体制における人件費の算定ベースが適正であったか否かが、第一に考えられなければならない。つまり、その時点での人件費が売上に対して適正なものであったかを問うことになる。この捉え方が間違っていると赤字の解消、そして黒字化は容易ではない。
言い換えれば、黒字になる体制を整えていなければ、変化した状況に応じてさまざまな施策を講じても、結局は付け焼刃の緊急避難にしかならないということである。大切なことは、例え売上が減少しても企業が成り立つ利益構造を構築しておくことにほかならない。
そこで筆者は、財務解析によって人件費を「売上の二五%」で運営する「利益ストラクチャー」の必要性を提言してきた。
ところが現状では、多くの旅館・ホテルで三〇%程度になっている。例えば、前出のケースでは、売上の低下に伴って人員の削減を行ったが、それでも人件費率が三五%にまで膨らんでいた。
前号において各部署の業務内容に応じた「ノーマルな陣容」に触れたが、仮に必要最低限の陣容であったとしても、見直すべきは陣容の頭数ではなく、業務内容と売上のバランスである。つまり、人件費を人数だけで捉えても、適正化は図れない。人数だけで社員構成をみれば、パートを多用することで見直しの余地は十分にあり、この点は前シリーズ「構造改革」で述べたとおりである。問題は「売上の二五%」をどのような位置付けの基で配分していくかである。
したがって、前述のケースを極めて単純化すれば、三五%の人件費率を仮に六%下げて二九%に設定したらどうなるかである。答えは自明の理である。ところが、「会社はいいが、それでは社員が納得しない」と短絡しがちである。
ここに、これまで述べてきた等級制、年俸制、業績評価報酬といった諸制度が不可欠となる。結果として、売上が想定額を上回ればその分に見合ったプラスアルファが加算されるわけであり、会社にも利益が残る。逆に下がった場合は、社員はその額で我慢しなければならない。上述のケースでは、とりあえず想定した「二九%」の範囲内(最終的には二五%を目指す)の賃金に甘んじるしかない。しかし、会社はトータルな視点で算定しているために、赤字になる危険は回避できる。最低限の利益だけは確保できる仕組みになるわけだ。
こうした利益のあり方が「利益ストラクチャー」の発想である。ちなみに、ここでのプラスアルファの報酬は、人件費と同様に想定売上に対する増売分の「二五%ワク」で算定することになる。これが業績評価の基本的な給与原資になる。
もはや、人件費をどのようにコントロールして利益を確保していくかが、「最終的な施策として極めて大きな意味合いをもつに至っている」との認識が不可欠である。そのためには、当面の施策として財務解析を行い、諸経費の実態を洗い直すなかで、パート化比率の見直しや人件費そのものをカットする諸施策が断行されなければならない。
そこで、人件費に関しては、妥当性のある「業績評価給」を採用することが、最も基本的なことがらであると筆者は考えている。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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