「旅館を黒字にするために」 その23
「比例経費」と「固定経費」
Press release
  2001.09.29/観光経済新聞

 旅館・ホテルの財務解析については、「実勢稼働定員」をはじめ、いくつかの基礎数字を与件として把握しておく必要がある。また、概念として整理しておかなければならない項目もある。例えば「比例経費」と「固定経費」などもその一つである。
 このうち比例経費は、いわゆる仕入原価と営業経費、それに人件費などである。ただし、これは大まかな捉え方であって、実際のシミュレーションにおいては、営業経費の中の案内所経費をはじめ、実情を加味しながら、固定費との調整が必要な項目もある。また、人件費なども、単純に比例経費としてだけでは捉えきれないケースもあろう。
 一方、固定経費としては、いわゆる管理費がある。ここでも比例経費と同様に、これまでの仕分方法というだけで固定費として処理できない項目もある。さらに重要なのが、設備投資にかかわる借入金の支払利息と減価償却である。本シリーズのテーマである黒字化・自力再建の対極である赤字によって、借入金の返済に支障をきたすという現実をクリアしないかぎり、黒字化はあり得ない。
 なお、筆者がここに提示している比例経費・固定経費といった区分けは、前述のようにあくまでも第一段階として概略を把握するレベルのシンプルなものである。まず、各館がそうした認識のもとで、財務解析の第一歩を踏み出す動機付けとしたいからである。各論といえる各館の実態に沿った財務解析では、専門家による作業が欠かせないのはいうまでもない。

◆黒字転換総消費単価

 ここで、前号で示した「黒字転換総消費単価」について、以下、数字をあてはめながら算出方法を紹介してみたい。
 与件は、前号と同様である。

・客室数=七〇室
・年間宿泊者数=五万一千人
・売上総額=八億円

 さらに八億円の内訳と固定経費などの各項目は、以下のとおりである。(端数切捨て概算)

【売上総額=八億円】

<館内消費分>
・売店=五千六百万円
・スナック=二千四百万円
・レストラン=三千二百万円

<宿泊分>
・飲物消費=九千六百万円
・宿泊売上=五億九千二百万円

【原価=一億九千二百万円】

<館内消費分>
・売店=三千九百二十万円
・スナック=百二十万円
・レストラン=八百六十万円

<宿泊分>
・飲物消費=二千四百九十万円
・宿泊売上=一億一千八百万円

【人件費=二億四千万円】

<館内消費分>
・売店=一千万円
・スナック=九百万円
・レストラン=九百万円

<宿泊分>
・飲物消費=〇
・宿泊売上=二億一千二百万円

【販売費=一億二千万円】

 全額を宿泊売上分として一括計上。

【固定経費=一億二千万円】

・一般管理費=一億五千二百万円
・支払利息=七千二百万円
・減価償却=九千六百万円

 以上の数値から見える実態は、総売上高の八億円に対して、総経費は八億七千二百万円を上回っている。比率にして九%、七千二百万円余の赤字決算になっている。
 このうち、原価や人件費、一般管理費などは構造改革をはじめとした諸施策を講じることで、現状より若干の修正は可能である。だが、支払利息や減価償却(いわゆる返済額)には手の施しようがない。「利息だけ払っておけば」といった言葉を耳にすることもあるが、これは当座しのぎであって、根本的な解決の途でないことは誰でも知っている。ところが、前述のような決算内容であれば、そのしわ寄せ先はおのずと想定できる。
 現状の一人当たり総宿泊単価は、総売上高の八億円を年間宿泊者数の五万一千人で割れば、一万五千六百八十六円となる。同様に総経費を年間宿泊者数で割れば、本来必要とする一人当たり総宿泊単価が算出できる。その結果、現状の総消費単価に対して、一人当たり一千四百二十円の赤字になっている。
 したがって、総消費単価は、現状に赤字分を加算した一万七千百六円で、赤字決算ではばくなる。もちろん、これは机上の計算であって、実際のシミュレーションとは違う。肝心なことは、この数字を出すために、比例経費が一万八百三十一円、固定経費が六千二百七十五であったことなどが判明する。こうした数字を踏まえることで、稼働率や単価アップの方策を目指すのか、あるいはサービスの可変体制を指向するのかといった方向性もみえてくる。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
(つづく)