「旅館を黒字にするために」 その22
まさに「発想転換」が必要 |
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旅館・ホテルの財務解析については、次回から具体的な内容に入るが、その前に現状認識について前回は整理だった部分を補足しておきたい。
現状認識に際しては、本シリーズでたびたび述べてきたように、当面、経営状態による三つのグループ分けが基本となる。自館における現在の営業状況がどのグループに属すかによって、以後の選択肢が変わってくるからである。
第一のグループは、不動産業部門・料飲部門の両部門でまずまずの実績をあげている黒字の旅館・ホテル。
第二のグループは、不動産部門はそこそこだが、料飲関係の運営経費が全体的な利益を圧迫しているケース。
第三のグループは、料飲部門が不動産部門を脅かしているケースなどである。
現在の低迷する状況下では、多くの旅館・ホテルが第二、第三のグループに含まれる。グループごとに実相が異なれば、集客手法や販売単価をはじめとした現実への対応は、それぞれ全く違った展開が必要になるのも当然の帰結である。
いい換えれば、経営状態を踏まえた三つのグループ分けに沿って自館が置かれている状況を再確認し、ドメインを明確化することで自ら「客の選別」を行うなどの経営変革を図る必要がある。これが、自立再建へ向けた黒字化の途であり、今後の選択肢として残されている分野である。
客の選別とは、必要なサービス部門のみで対応のできる経営状態を、自ら創出することである。前号に記したサービス単価を明確にして「サービス内容のあり方・接待のあり方」などを決定するということである。たとえば、第一のグループであれば、高単価・高質サービス、大二のグループは単価に見合ったサービスの可変、第三のグループでは徹底したサービスレス体制(コンドミニアム化など)への転換である。
さらに「客の選別」と並行した地域での棲み分けも発想できる。そうした方向が定まれば、アライアンスなど自ら販売に打って出る手法も模索できる。もはや、景況の回復を待てばいいという段階ではないし、相手(旅行業者)まかせ一辺倒で本来の経営が成り立たないことを、大多数の経営者は実感しているはずである。そして、こうした考え方の根本は、シリーズ冒頭の旅館・ホテルが「観光において中核をなす基礎産業である」といった認識である。
ともあれ、必要なのは「WHAT」ではく「HOW」である。そのためには、正確な自己解析こそが始めの一歩である。赤字の要因は、景気の低迷がすべてではないし、自館のサービス内容や施設展開が、利用客のニーズとかけ離れているだけでもない。不動産部門と料飲部門をファジーなまま放置したまマネジメントにあったと知ることである。発想の転換が、まさに必要である。
◇ ◇ ◇
さて、次号からの財務解析の前に、概念的な部分について若干の事前説明をしておきたい。
現状を把握するためには、まず年間を通した「実勢定員数」から「実勢定員稼働率」を知る必要がある。現在の「定員稼働率」は、ここでは意味をなさないからである。
そこで、筆者が手がけた旅館を事例に、数字をあてはめながら算出方法を紹介する。与件は次の通りである。
・客室数=七〇室
・年間宿泊者数=五万一千人
・売上総額=八億円
ここでの年間実勢定員は、客室数に定数(一室=三・三人)を掛け、さらに年間の三百六十五日をかける。
「七〇×三・三×三六五」
となり、年間の実勢定員である八万四千三百十五人が算出される。この数字で、現在の年間利用者数を割る。
「五一〇〇〇÷八四三一五」
年間を平均した実勢定員稼働率は、六〇%である。
以上の数字は、最も基本的なものであるが、それでも現状に対する今後の対処方向の一端がみえてくる。例えば黒字転換に必要な、目標数値などである。
稼働率の引き上げが可能な状況であれば、実勢定員稼働率を七〇%へアップさせる営業努力目標が、あと八千人ほど増加といった具体的な数値目標として示すことができる。また、稼働率アップが厳しければ、財務解析によって赤字額を明確化し、そこでの比例経費と固定経費から、修正すべき経費部分を導きだすことができる。それを元に「黒字転換総消費単価」が割り出され、前記の三つのグループ分けから選択肢を方向付けることが可能となる。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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