「旅館を黒字にするために」 その21
「売り方」が重要な要素に |
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旅館・ホテルが黒字化・自力再建を目指す上で、第一になさねばならない課題として本シリーズでは「財務解析」を提起し、そこへの道程として現状の姿をさまざまな角度から捉え、問題の背後に潜む各種の要素を洗い出してきた。今回と次回の二号にわたり、これまで提起した問題点を整理し、それを踏まえて主たるテーマである財務解析と販売手法の検証に移りたいと考えている。
シリーズ冒頭で筆者は、旅館・ホテルの基本的なスタンスとして、観光の中核をなす「基礎産業」との認識を示した。基礎産業とは、極めて主体的に発想し、行動するものである。ニーズを自ら検証し、自館の施設へどう反映させるかも、その一つである。
しかし、実際に旅館・ホテルのマーケティング手法やマネジメントの実態を改めて検証してみると、販売面での依存体質をはじめ、根幹部分に問題があると考えざるを得なかった。中でも、運営の基本姿勢は、永年の経験による「べき論」に拘泥し、いわばドメインにさかのぼる発想が忘れられている。それが、変化する状況への対応を難しくさせているようである。
言葉を換えれば、自ら主体的に発想し、定めるべき方向を見えづらくさせている。「これ以上の値下げは経営を破綻させる」といった実感はあるものの、打開策を一向に見出せないのは、まさに「べき論」に固執しているからにほかならない。そこに、黒字化・自力再建を阻む要因が潜んでいる。
つまり、旅館・ホテルの運営で根本となる要素は、「不動産部門」と「料飲部門」であり、とりわけ「客を泊める施設がなければ成り立たない」という大前提がある。端的にいえば、一泊二食の「一泊」は、消費者に一夜の宿泊スペースを提供する不動産業としての賃貸である。ドメインとは、そこに立脚するものである。
では、不動産業の基本は何か。まさに「建物を利用して利益を生み出すこと」である。経営の最終目的は、利益を得ることにある。いわば黒字化であり、これには誰も異存がないはずである。筆者は黒字についての定義において、「不動産をはじめとした投資を完全償却し、それとともに売上の五%の利益が出ること」との考え方を示した。これは、理論上でも現実面でも必要であると認識している。
これらを踏まえたとき、恒常的な赤字体質、あるいは黒字化を阻む要因は、当然ながらドメインに立ち返って洗い直す必要がある。ところが、立ち返るべき先が不明瞭なのである。仮に洗い直しをはじめたとしても、前述した「べき論」の範疇にとどまって、すぐに行き詰まってしまう。新しい取り組みを始める前に「それはムリだ」と答えを出してしまうのである。
こうした堂々巡りの原因は、不動産部門と料飲部門の混在に端を発している。例えば、現状の販売形態を振り返ると、一泊二食の販売方式には、かなり以前から「泊食分離」をはじめとする問題提起がなされてきた。この泊食分離はもとより、経営の機軸を不動産業に据えて、経営の目的を捉える必要がある。
不動産業の視点から料金構成を捉えてみると、部屋の販売が「目的」であり、料飲部門は稼働率をアップさせるための「手段」と認識できる。この目的遂行に向けては、ドメインの認識を云々しなくとも、潜在的にある「不動産業」としての意識が、いい部屋・悪い部屋、面積などを基準にした販売価格の可変体制を実行させている。
ところが、サービス面での可変性に対しては、意外なほど無頓着に済ませている。サービス単価を明確にした「サービス内容のあり方・接待のあり方」などの段になると、旅館業の伝統的なスタイルに固執するあまり、状況が変化した現今にあっても旧態を脱しきれないでいる。不動産部門と料飲部門が意識下でボーダレス化した混在が、現状打開において大きな足かせになっていることは、ここからもみて取れるはずである。
この解決方法は、不動産部門と料飲部門を明確に区分した財務解析にある。
たとえば、一泊二食の販売価格は、不動産業としてのリース料に原価率(料飲)とオペレーションコストを加えたものである。そうした視点で現状認識・販売価格を解析し、その上で売り方を考える必要がある。
黒字化・自立再建では、この「売り方」が極めて重要なファクターだからである。そのためには、ドメインを明確化し、自館の経営スタンスともいうべき営業グレードに沿った相応のサービス体制を、急ぎ再構築する必要がある。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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