「旅館を黒字にするために」 その18
自館の正確な財務解析を |
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旅館・ホテルの黒字化、そして自立再建の途を探るべく本シリーズを展開している。これまで、不動産部門と料飲部門の財務解析の重要性を示し、オペレーションコストの見直しをはじめ、現状に照らした販売手法や経営スタンスの確立を多面的に提案してきた。大切なことは、これらの諸要素を総合的な角度から検討し、当面の方向性を自らの実情にフィットする形で確立することにある。言い換えれば、自館のドメインを明確にすることだと指摘してきた。そこでは、不動産部門と料飲部門のどちらを中心に据えるかが、発想の出発点にもなってくる。こうした論は、ややもすると堂々巡りで迷路にはまりがちだが、それを避けるためには、最初に「不動産部門と料飲部門の財務解析」ということになる。
一方、財務解析だけを捉えると、机上での分析であって「観念の域」にあるものように思われがちだが、実は違う。解析の結果として明らかになるのは、まぎれもはい自館の実情であり、現実の姿にほかならない。「WHAT」ではく「HOW」を考える上で必要なことは、正確な自己解析である。これを曖昧なまま「こんなものであろう」と経験則だけにゆだねてしまうと、具体的な方法論であるはずの「HOW」が観念の域から抜け出せなくなり、そこでのシミュレーションさえ砂上の楼閣に等しい空疎なものになってしまう。多少の労力とそれへの経費は必要だが、生き残りをかけた戦略を構築する上で、避けては通れない途でもある。決して「急がば回れ」の常套的な方法論ではなく、非常事態だからこそ必要な手順と認識する方が正鵠を射ていると筆者は考える。
余談ではあるが、いま、テレビ・新聞のスポーツ欄を連日賑わせているものの一つに世界陸上がある。日本選手の活躍に一喜一憂しながら見ているのも、オリンピック同様の楽しみがある。そんな中、ハンマー投げの室伏選手が日本人として初の銀メダルを獲得したニュースは、多くの人に感動を与えた。体力的に勝る強豪に対して、自分の体力にみあった技を磨き、頂点を目指す姿勢は賞賛意外のなにものでもない。そして、この卓越した技は、自己の体躯的な特質を見極めたからこそ可能であったものだといえる。
同様に、米国の大リーグへ移籍したイチロー選手の活躍ぶりにも目を見張る思いだ。ホームランバッターとはいえない彼がこれだけ人気を博しているのは、改めていうまでもなく、自己の特質を最大限に発揮して「結果」を残しているからだ。平凡なゴロを内野安打に変え、入るはずのホームランを捕球する場面では、それこそ足の速さが光っている。同時に、その瞬間に発揮される並外れたコンセントレーションを筆者は感じる。集中力である。
こうしたニュースに接するとき、筆者は一昔前に流行した「スポコン」ものとは違う流れを感じてならない。定めた目標に対して監督や指導者の経験だけを頼りに、遮二無二ひたはしる根性一点張りとは、基本的な部分で違うような気がする。もちろん、自ら汗する姿勢は否定しないし、一昔目であっても現在でも日々のトレーニングで流す汗は同じであろう。試合の場でのコンセントレーションも同じだとは思うが、その集中力を支えているのが経験だけではない「特質解析を含めた複合因子」だと考えるのが、現在のものとしては妥当であろう。
余談が長くなってしまったが、冒頭の不動産部門と料飲部門の財務解析、それによるドメインの明確化は、非常事態下での急務あり、早急に手がけなければならない。こそが「HOW」の出発点である。ところが一方で日々の業務も山積している。「今日がなければ明日はない」のも事実だが、「明日のために今日がある」のも一方の真理である。これは、単なるレトリックでも言葉あそびでもない。「いま、何をしなければならないか」を自問自答する上で、経営者が選択しなければならないテーマである。そして、決めたことへのコンセントレーションが必要だ。迷いは、集中力の欠如が大きな要因になっている。
旅館・ホテルは、いわゆる「施設」と「料理・サービス」が三大要素になっているが、さらにドメインを明確化させるには、これらを複合化させる上でのバランス感覚が最大の要素となってくる。そうなると、三大要素はすべて経営者の資質にゆだねられている。これは、経営者の誰もが実感し、分かり切っている話だ。しかし、分かっていても山積する業務に追われて問題個々への対応が散漫になりがちである。いまこそ、集中力を発揮させるときである。 (続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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