「旅館を黒字にするために」 その16
オン・オフ格差を考える |
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不動産業としては、第一に建築コスト、キャッシュフローなどを踏まえた販売価格(料金設定)の出し方を考える必要がある。次が、設定した料金を基にした売り方が問題となる。本シリーズでこれまで指摘してきた要点を整理すると次のことがいえる。
例えば、オン・ショルダー・オフの価格格差にどう対処するのかといったテーマがある。オフシーズン・オフデーには思い切った価格設定で、客室稼動のアップを第一に図るのもその一つだ。もちろん、従来も休前日料金といったオン・オフ格差の発想はあった。だが、平日を標準料金として「休前日は三千円増し」といった方法では、利用者に「特定日の割高感」を認識させるだけだった。ここでいう格差とは、「平日は割安だ」と思い込ませる訴求方法が欠かせないということである。
かつて、一般的な料金表示では「から・まで」の最低料金帯を表示し、数字のマジックで興味へのファーストインプレッションを与えていた。誇大広告は別としても、導入部のインパクトが大きければ、購買アクションの可能性が高まると考えられてきたからだ。これは一般の商材でも広く用いられてきた手法である。それでも、最終的な消費額は「から・まで」の半ばぐらいに落ち着き、最低価格よりも上回るのが常だった。こうした現象は、日本人の気質に負うところが大きな要因だ。定食で「松・竹・梅」とあれば「竹」が最多販売メニューになっていたのも、そうした意識の一例といわれた。
ところが、昨今のいわゆる「標準価格」とは、実際の購入時には「それよりも安い」というのが通念化している。そうなると、特定日を「割高」と考える発想は、時代のニーズからは受け入れられ難くなっている。
余談ではあるが、一般の消費者が旅行をする場合、旅館側の考える特定日が消費者にとっては旅行へ出られる「普通の日」なのである。平日、ましてオフシーズンの平日は、旅行の対象外である。客にとって普通の日を、売る側の論理で特定日としてきたところに、無意識や過去の慣習を踏襲しただけだったとしても、旅館側の傲慢が潜んでいる。「お客様第一、心のこもったおもてなし」といったフレーズも、どこか空々しい響きさえある。いま、そうした奇麗ごとや美辞麗句で客は納得しない。発想の転換が必要なのである。
特定日を設定する背景にあったのは、市場原理である需要と供給のバランスだった。決して旅館だけの悪しき商習慣ではない。また、シーズン波動の大きな観光地に立地する施設であれば「稼げる時に稼ぐ」のも当然のことだった。しかし、需要と供給のバランスは変わりつつある。単に需要の停滞、あるいは供給過多といった視点では捉えきれないのが昨今の状況だ。肝心なことは、自ら需要を開拓する姿勢である。このとき、利用者の側にたって「何を売るのか」が明確でなければ、価格の設定も販促手法も見出せない。
そうした意味合いからみると、フリーの客への対応も、これからは見直さなくてはならない。例えば、不動産業としての認識を第一義に据えるならば、泊食分離をはじめとした施策によって、客室稼動のアップが大きな課題となる。かねて指摘をしているように、食事をつけようとすれば、料飲関連部門の余剰スタッフを常に貼り付けねばならなくなる。そこに、従来の「たら・れば」の発想が蒸し返させられてしまう。不動産業として捉えれば、客室が稼動するだけで十分に採算はあうはずだ。現実にシティーホテルでは、当日の客室が空いていれば、思い切った価格で泊めて成功している例も多々ある。
ところが従来の旅館では、泊まるところを求めて来た当日客は、需要が確実にみえていることから、「足元を見る」とは言いすぎだが高く売ろうとしてきた。それを可能とさせるためには、前述の「たら・れば」で余剰スタッフを抱える内部矛盾をもち続けてきた。右肩上がりの景況でも本来は許されないはずであり、まして現下の景況ではムダ以外のなにものでもない。
筆者は、不動産部門と料飲部門の明確な区分けとマネージメントの必要性を再三再四いい続けている。市場原理に基づいて新たな需要を開拓しようとしたとき、従来の「ドンブリ勘定」では一歩も前には進まない。要は、両部門の営業内容を解析し、自館で提供可能なサービスを確定し、顧客に喜ばれるサービス体制を組むことが必要である。利益が出なければ事業ではない。まして自力再建などありえないのだ。いまこそ大英断が迫られている。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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