「旅館を黒字にするために」 その15
サービス維持で売上げ確保
Press release
  2001.07.28/観光経済新聞

 旅館・ホテルの「黒字」について前号で定義したが、ここでいう黒字は、不動産業からオペレーションコストを弾きださなければならない。これが前提条件としての一つである。したがって不動産部門と料飲部門を明確に区分した認識が必要だ。
 ところが、不動産業を維持するには、現状のサービス維持が必要な部分もある。これは、筆者の論と矛盾するようでもあるが、あえて記しておかなければなるまい。例えば、泊食分離で「食事なし」の体制にいきなり移行することは難しい。部屋稼働率などの維持から、急激な移行はとりあえず避けるのが賢明であろう。経営のオペレーションシステムづくりが必要だからである。その移行過程で確実なシステムを構築できなければ、泊食分離による新システムさえ「絵に描いた餅」になる懸念がある。そこで、現状のサービスを落とさずに売上を確保するにはどうするかの論になる。
 これについて筆者は、これまでに営業状況による三のグループ分けを提示してきた。第一のグループ以外、つまり現状では八割以上を占めると目される第二・三のグループは、泊食分離を始めとした新たなサービス体制への移行を含んだ選択肢のもとで、自館のスペックを検討することになる。ただし、細部仕様に執着して脈絡もなく個別に捉えると、すべての事柄が「たら・れば」に終始してしまうので要注意だ。そして、前述の移行へ向けたシステム構築の時間は、それほど残されていない。現在の低迷する時代にあっては、旧来の発想を捨て去ることが必要である。思い切って「泊職分離」といった姿が想定でき、第二・三のグループで本当に悩みぬいた旅館は、すでにそうしたサービス体制へ移行している。そこに欠かせないのがオペレーションのノウハウである。
 これとは別に「なりふりかまわず」といった姿は、現実をみたとき枚挙に暇がない。大半がそうした状況だといっても過言ではない。三万円以上でしか客をとらなかった旅館が、平気で一万円の客をとっている事例など、もはや例外ではない。そうした旅館でも、運営面に目を向けると、相変わらず高品位接待をしている。それによって一定の稼働率を確保しているが、そこに利益の出る要素など見当たらないし、常識的に考えれば黒字など望むべくもない。いわば、利益を度外視して日々「回しているだけ」、あるいは「借金返済の目処が立たない」といった悪循環スパイラルに陥っている。
 そこで、不動産業としての基本的なスタンスに立脚すれば、前記の旅館は思い切ってコンドミニアム化するなどの対応策が必要になってくる。ただし、これは単なる「荒療治」とは違う。希薄化して忘れられていた不動産業としての本筋に立ち返るのに等しい。営々と築いてきたものを「廃墟」と化させないための選択だと筆者は考える。
 こうした選択は、まさに「経営者の責任」においてなされるものであり、その選択に迫られているのが、現状の多くの旅館だといえよう。
 問題は、前述の「なりふりかまわず」によって現出した状態への対処方である。いわば、現実の姿は「以前より落ちている」にもかかわらず、それでも従前の客層を狙いつづける経営センスである。従前の客と現状の客によるニーズの違い、それにかかわる接客サービス体制の妥当性などを明確に把握し、その違いを解析するならば、当然のこととして抜本的な改革が必要になる。これが、なされていない。
 仮に、従前の客層を狙い続けるとして、それに対応できるハード面を維持できるならば、泊食分離を徹底することで対応の途がないわけではない。「泊」の質に対応する「食」を外部に求める方法も決して論外ではないからだ。不動産業に徹すれば、これとても自然な発想の一つといえなくもない。現実に、ホテルへ宿泊したときの食事を考えてみればいい。旅館だからそうした形態は「なじまない」と思い込んでいるが、果たしてそうなのか否かは、軽々に結論づけられる性質のものではないはずだ。試す前に否定する「構造改革」などありえない。泊食分離を実際に推進し、実績をあげつつある旅館も現実にある。
 すでに述べていることではあるが、「空気を泊めても利益は出ない」の論にしても、泊食分離であるならは、空いている部屋を素泊まりニーズの客には、どんどん販売すればいいだけである。それを従前の「旅館とは」といった形式にこだわり、「たら・れば」で運営体制を膠着させてしまい、空いている部屋でも「泊められない・売れない」といった状況を生み出してしまっているのだ。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
(つづく)