「旅館を黒字にするために」 その14
徹底した「財務解析」を
Press release
  2001.07.21/観光経済新聞

 不動産業では、建物を利用して利益を生み出すのが基本である。そのためには、現状分析が不可欠なことを筆者は度々指摘してきた。自館の収支状況を解析することである。現状の日本旅館は、大半が「昔の帳場」の延長とでもいえる形態の中で、収支状況をアバウトにとらえているようだ。しかし、これでは不動産業として成り立たない。
 いい換えれば、不動産業としての認識が薄いからだ。例えば、アメリカのホテルでは次の点が特筆できる。ホテル経営にあたるマネージャーは、徹底した財務解析を常に行っている。その中の一つに不動産業という視点があり、もう一方に料飲部門のオペレーションがある。両者を明確に区分した上でマネージメントにあたっている。
 そのような財務解析のスタンスを踏まえたうえで、「黒字」をどのように捉えるかである。この点について筆者は、「黒字」を以下のように定義している。
 「不動産をはじめとした投資を完全償却し、それとともに売上の五%の利益が出ること」 これが理論上でも現実でも必要である。
 この状態に自館をもっていくためには、それぞれの「描き方」によって内部のミクロ解析を、まず行う必要がある。それによって自館の細部にわたる仕様、いわゆるスペックを決めるわけだ。そこにおける人件費率などは、あくまでも数字のマジックであって、利益を確保することこそが絶対条件であるのがみえてくる。
 では、前述の財務分析とは何か。基本は「一+一=二」のベーシックな分析である。これをベースにして高度分析が行われるわけだ。例えば、従業員一人当たりの労働生産性といったミクロの人件費率などが計算できずに、資本回転率をはじめとした「百+百」の計算がいきなりできるわけはない。まず、ベーシックものから始めることが大切である。
 実際には、借金と償却のキャッシュフロー、運営費の分解(施設運営コスト、料飲運営コスト、高品位接待コスト)、さらに販売単価の解析などが必要である。これによって、いわゆる「日銭の客」「月銭の客」「宝くじの客」といった三つの商売チャンネルの絞り込みもできる。そうなると、不動産業として日銭を確実に稼ぐことが第一歩であることも、自明の理として浮かび上がってくるはずだ。そこで、販売単価の分析が必要になる。
 また、中間分析というものがある。ここでは、いわゆるサービスコストを捉える。サービス販売単価の見直しともいえよう。例えば、機能としてなりたっているものに対して、機能以外のものをオンしてケースなどを洗い直すことでもある。これらの解析によって、経費とみなされてきたものの実態が浮き彫りにされよう。
 そして、不必要に膨らんでいる贅肉的な経費は、当然ながらカットする。経費を下げる方法が問題になるわけだが、その前に経費を規定しておくと、大別して三つのカテゴリーがある。一つは人件費、二つ目は一般的な経費(維持費やメンテナンス)、三つ目は消耗品である。例えば、順番は前後するが消耗品においては、高単価の客層には化粧落としのパフから始まって最高のものを備え、タオル類も持ち帰りのできる高級品を用意する。逆に低単価の客層では、タオルも貸しタオルにするといった具合に、消耗品サービス体制において徹底的な可変体制をつくることが、この分野での削減の第一歩ともいえる。
 ただ、このような可変性を実行するためには、オペレーションノウハウが必要になる。客単価ごとに「このように対応する」といった現場の手法だけではなく、その体制を保持するのに必要な基準の明確化と仕入ルートの開拓が欠かせない。オペレーションとは、これらを総合的に管理するノウハウであり、運用にあたるシステム構築である。
 施設・設備のメンテナンスにおいても、現状では相当の維持経費がかかっている。例えばボイラーの管理、防災施設の管理などでも固定的な人員が必要であり、エレベーターの保守、電気系統の保守などさまざまな保守管理の経費が発生している。これらをアウトソーシングや地域で協業化していく方法も、今後の課題として残されている。
 こうした改革は、接待やフロント、バックヤードの総務などほとんどの職域に必要である。 極論としていえることは、不動産業ならば経費の大半は施設の維持管理で終わるはずだ。冒頭のアメリカにおけるマネージャーの財務解析のように、不動産業を踏まえた解析を徹底すれば、現状における経営上の矛盾点もみえてこよう。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
(つづく)