「旅館を黒字にするために」 その13
販売チャンス放棄するな |
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不動産業と料飲部門を完璧に区分する必要性について、筆者は再三述べてきた。最も大きな理由としていえることは、投資によって発生した借入金の返済は待ったなしに迫られ、それを履行するのが一般常識だからである。ここでの返済分は、不動産業の分野から確実にクリアしていくのがスジだと考えるからである。
しかし、現実には料飲部門で生じた赤字オペレーション(サービス関係の人件費など)と不動産部門が錯綜し、トータル的に処理されているケースが大半を占めている。これが赤字の原因把握や改善を困難にさせ、黒字化を阻む最も大きな要因となっている。
仮に、料飲部門が赤字オペレーションであるとするならば、単価の高い客層あるいは人件費にみあった客層に特化することで、赤字から黒字へ転換させることも可能だといえる。この点は経営状態による三つのグループ分けなどですでに述べたとおりである。最終的には、料金帯による絞込み、さらに一歩進んだ地域内での棲み分けなどの方法論が考えられる。
こうした方法論は、さらに具体的に検討を要するテーマではあるが、その前に現状を「どう解析するか」が最も重要な点だといえる。というのも、これができないと待ったなしの借入金返済が優先してしまい、旧来の販売チャンネルに固執することにならざるを得ないからだ。結果として、言葉は悪いが「鴨がネギと鍋を背負って来た営業構図」から脱却できないまま、悪循環のスパイラルに陥ってしまう。
いうまでもなく不動産業としての諸投資は、そこから利益をあげるための手段にほかならない。しかし、前述のような他力本願的な構図のなかでは、手段が目的化してしまいがちである。極論すれば、借入金の返済が目的化するような本末転倒の状況が、ややもすれば「現実」と誤認される不可解な状況を生み出してしまう。
そこで、不動産業としての認識から自社商品の販売チャンネルを開拓する努力が、現状ではなんとしても必要になる。いわゆる「売上がちょっと上がれば利益が出る」といった現実は、不動産業と料飲部門の明確な区分からしか見出せない。
例えば、販売チャンネルの開拓においては、インターネットによるネット販売もあるだろうし、諸企業・団体と提携した販促活動など多種多様である。筆者がコンサルティングを手がけた鹿児島にあるシティーホテルのケースでは、デパートの「友の会」と提携して年間に一万人を誘客した実績がある。また、インターネットを活用した例としては、通常二万円の料金帯の客室を、平日の空いた日に限って「一万円ポッキリ」で企画し、ネット上で販売告知をしたところ「たちまち完売」のケースも実際に出現している。こうしたネット販売の事例は、都市ホテルなどで急速に広まりつつあり、消費者の一部にも「ネットで購入した方が得だ」といった認識も芽生えはじめている。前号で述べた「空気を泊めるよりは」の発想は、まさにこうしたリアルタイムの販売ケースにあてはまる。「旅館商品はそうした性質のものではない」といった認識は払拭すべきである。
不動産投資は、投資した建物が利用されてこそ利益を生み出す。極めて単純明快な話であり、異論の余地はないはずだ。どんな場合でも、利用されない建物をつくる愚はない。
これを旅館・ホテルにあてはめてシンプルな模式図的に捉えるならば、総建築コストに対して償却率や年間稼働率、諸経費などを勘案し、不動産部門の室料として割り出した一泊の料金を、仮に五千円だとすれば、五千一円で売れば「一円の利益」が出ることになる。
ところが、こうした発想は非現実的として退けられるケースが多々ある。料飲部門のオペレーションが、現実の場面では立ちはだかるのである。不動産部門で得られる「一円の利益」は、料飲部門からみて意味をなさないといった論法である。
確かに、トータルで発想したとき、全体としての利益を見出すのは難しい。だが、今日の「五千一円」は、明日になれば無価値になるのが不動産業としての現実である。空き部屋のままでその日の販売チャンスを放棄してしまえば、返済に当てるべき五千円は絶対に得られない。そして、この五千円が得られなければ、不動産業が成り立たないのも当然の理である。
したがって、不動産業と料飲部門を明確に区分けした財務解析が不可欠であり、オペレーションにおいても区分する必要がある。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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