「旅館を黒字にするために」 その5
宿泊料金の内容分析が急務 |
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不動産部門と料飲部門を明確に区分したそれぞれの解析は、旅館・ホテルの黒字経営を考えるうえで最も基本となる。さらに加えるならば、不動産業の面から捉えるのが最善だと筆者は考えている。例えば、一泊二食の販売価格は、不動産業としてのリース料に原価率(料飲)とオペレーションコストを加えたものと理解すれば分かりやすい。
リース料とは、単純にいえば返済金額を返却期間で割ったものである。この部分が明確であれば、季節波動や曜日波動などの変動要因を勘案した可変的な価格設定も可能になる。
「そんなことは、これまでも実行してきた」
大半の経営者は、そう答える。確かに、オンシーズンや特定日・休前日料金として形のうえでは常識化している。消費者もピーク期や休前日は割高になるのを心得ている。問題は冒頭の解析を基に実行されているか否かである。結果が同じであればいいという問題ではない。
明確な解析のもとで実行されていれば、仮に価格破壊といっても一定の線を死守する意識が生まれるはずだが、現実は悪循環のスパイラルに陥っている。前号で「空気を泊めるよりは一円でも利益があれば直前まで対応する」といった姿勢を示したが、これは闇雲に客室を埋めればいいという意味ではない。
ところが、現実にはリース料(返済金)を確保するために「どんな客でも、どんどん受け入れる」ということになる。そこでの販売単価は、経験則からある程度の目安を打ち出していても、絶対的な単価が決まっているわけでない。このために、エンドレスの値引きがまかり通っている。
しかも、一軒だけの問題ではなく、業界全体を窒息させかねないほどの広義な問題に発展している。要は、前記の視点から販売価格に対する解析をしていないからだといえる。
販売価格の解析が行われなければ、結果として料飲部門がコスト高になってしまい、それが部屋の価格(リース料)にまで影響をおよぼしてしまう。ところが、その実態さえアバウトなために、何と何が相殺しあっているかさえ不明瞭なケースが多々ある。つまり、不動産・料飲の各部のオペレーション機能がオフになっているために原因が特定できず、いつまでたっても赤字から脱出できない状況を生み出しているともいえる。
したがって、不動産業としての部屋の解析と、料飲・サービス部門を解析したうえで価格を設定し、売り方を変えていく必要がある。
いま、およそ三つのレベルで経営状況をとらえることができる。経営状態による三つのグループ分けともいえる。
第一のグループは、部屋稼働率(不動産業部門)がそれなりのレベルに達成しており、料飲部門でもまずまずの実績をあげている。したがって、黒字の旅館・ホテルといえるが、全体からみると少数派ともいえる。
第二のグループは、不動産部門がプラマイ・ゼロの場合だ。そうした旅館・ホテルでは料飲関係の運営経費を一気に十分の一ぐらいにカットすることで利益を出し、黒字化が図られるケースである。この場合は、パート化によって運営費を削減するなどの効果的な手法が残されている。
第三のグループは、不動産業務に徹して労働生産性をあげなければならないケースである。いわば、料飲部門が不動産部門を脅かしているケースなどが、これに相当する。この場合には、コンドミニアム化をはじめとする不動産業シフトを強力に打ち出すことで、自力再建の途が模索できよう。
つまり、どこまでいっても不動産業としての基本的なスタンスを必要とするのが自明の理である。こうした認識のもとで客を限定することになる。いわばグレードをきっちりと定め、それによるサービスの違いを明確化することである。前号で指摘した「可変性」を、それぞれのレベルにおいて確実に履行することにもつながっている。これは、一企業・施設内で実施するだけでなく、地域が一丸となって展開する方法もある。いわば地域の再編であり、これまでもしばしば話題になってきた「棲み分け」を具現化する地域施策でもある。
また、仮に現状の客数であっても、経費の一割削減ないしは売上五%増で黒字が出る体質、人件費を大幅にカットすれば黒字の出る体質、いわゆる人的サービスをカットして不動産業に徹すれば利益の出る体質といった見方もできる。
いずれの場合でも不動産業を基本に据えながら、サービス内容を問い直すことで一つの方向がみえてくるはずである。そして、不動産部門と料飲部門について、適切なマネジメント手法を構築することが急務である。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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