「旅館を黒字にするために」 その3
「不動産業」という見地で |
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旅館・ホテルを観光産業における基礎産業と位置付けるとき、今日的な意味合いにおいて取り組まねばならい問題が多々ある。そして、赤字の原因や黒字化への要素を考えるとき、当然ながら現状の営業形態をふりかえることになる。
例えば、一泊二食の販売方式には、かなり以前から「泊食分離」をはじめとする問題提起がなされてきた。だが、現状は依然として従来方式が大半を占めている。変えられないのか、変えようとしないのかは、きわめて基本的な意識の問題である。同時に、その意識がさまざまに形を変えて、他の部分にも影響をおよぼしている。つまり、一泊二食を当たり前と受けとめ続けるかぎり、自力再建を含む抜本的な経営改善の途はみえてこない。
ただし、この指摘は、一泊二食の販売方式のみを問題視した狭義の提言を投げかけるためではない。むしろ、一泊二食の問題だけに関したものであれば、さまざまな意見があり、模索が続いていることも筆者は知っている。
「部屋の料金はいくら」「この夕食の価格は」
といった消費者の基本的な疑問に対しては、室料と料理の組み合わせによる料金設定、あるいはB&B形式などで一定の回答を示している旅館・ホテルもある。だが、大勢は旧来のままだ。消費者のニーズの多様化、旅行形態の変化といった言葉が業界の常識用語になっているにも関わらず、何がニーズの変化であり、形態の変化にどう対応しているかの段になると、内実はきわめて表層的な受けとめ方と対応でしかない。業界の指導的な立場にある旅館・ホテルの経営者にしても、五十歩百歩である。
「消費単価があと三千円あがってくれれば」「バブル期並とはいわないが、せめてバブル前の消費単価ならば」
これらの呟きは、いわば「本音」ともいえる。だが、そうした価格を口にする根拠となると、ほとんどの場合があいまいだ。これだけの投資をしているから、この品質の料理とサービスを提供しているから、といった程度の説明にとどまる。もとより、投資額や提供する料理・サービスを根拠にするのは当然だが、問題は、それらを「一泊二食」でくくってしまうところにある。
泊食分離やB&Bに関心は示しても、つまるところ一泊二食の既成概念にこだわり続けている。ここで留意しなければならないのは、一泊二食の是非ではなく、一泊二食が内包する意味合いである。端的にいえば、一泊二食の「一泊」は、一夜の宿泊スペースを提供する不動産業としての賃貸である。となれば「二食」は当然ながら飲食業である。旅館・ホテルの運営で根本となる要素は、「不動産部門」と「料飲部門」であり、こうした区分に異存をはさむ余地はない。ところが、一泊二食の販売意識においては、この二つの部門において《境界なきグロス化》が生み出されている。
ひるがええて、旅館・ホテル業は「客を泊める施設がなければ成り立たない」という大前提がある。あまりにも当たり前すぎるために、これを「基本認識」などと大上段に構えると、「バカバカしくて話にならない」といった受けとめ方さえされる。しかし、この基本に立ち返ると、さまざまな問題が自ずとみえてくる。
要は「不動産部門」と「料飲部門」を明確に区分した捉え方、それに基づく財務管理意識といったものの欠如が、一泊二食の根底にある。旅館・ホテルの基本は「いくらで客室を売るのか」にある。
例えば、提供する料理やサービスのあり方ひとつにしても、不動産業として捉えるのか、料飲主体でみるのかで大きく違う。当然なが、そこに関わる人件費をはじめ、販売手法にも影響をおよぼす。これは、旅行業者に対応するスタンスの違いにもなるし、シーズンと曜日による需要の波動やそれに伴う価格設定にも作用してくる。
つまり、客室の販売を大前提としたとき、料理やサービスなどの付加的な販売部門が妥当な価格で利益を上げているか否かが、最初に考えられなければならない。極論をいえば、利益のあがらない部分を切り捨てることも、自力再建には不可欠ということだ。こうした区分が不明瞭なまま諸施策を講じても、成果はあがらない。
行き着くところは二つのうちの一つである「不動産業」なのだ。さまざまな改善要素が互いに干渉し、効果を打ち消しあう事態を惹起させないためにも、二つの要素区分を明確に意識するスタンスが不可欠である。
(続く=経営コンサルタント・松本正憲)
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(つづく) |
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