「旅館経営マニュアル」 その40
基本は「シンプル」がベスト
Press release
  2002.02.16/観光経済新聞

 マニュアルにおける「シンプルさ」について書き進めてきたが、多くのマニュアルをみる限り、この点に問題があるのは否めないようだ。かつて、コンピュータの操作マニュアルは、それを読んだだけでは理解できずに、マニュアルを読むためのマニュアルが必要とさえ考えられていた。
 こうした笑うに笑えない現実は、やはり作り方に問題がある。大・中・小の項目だてをはじめ、表記方法での熟考が必要だからであり、それが他人任せでおざなりだと問題が起きるし、といって専門家のフィルターを通さなければ、やはり使いづらいものになる懸念が大きい。
 例えば、広告宣伝のコピーを考えてみると、多くの場合に最終的なフレーズは専門家に委ねられている。表記された内容が、そのまま訴求力にかかわるからだ。この広告コピーは、伝えたいことをシンプルな文書の中に凝縮したキャッチフレーズと、具体的な内容を説明するボディコピー(本文)によって組み立てられている。この場合、キャッチフレーズの中に本文でいうべきことがらを盛り込むと、はなはだ間延びしたものになってしまう。瞬間的に相手に伝わる部分が説明調で希釈されると、印象が乏しいだけでなく伝えたいことも伝わらない。
 ということは、マニュアルづくりにおいても、何が「大項目」であり、そこから派生する次位の項目、さらに詳細な事項へといった組み立て方が欠かせないということである。
 また、一般に「しない」「ではない」などの否定する表現は、原則・理念を説明し、基本を教えるうえでは大切なことであるが、作業の指示をするうえでは不用意に用いると混乱のもとにもなる。
 例えば、赤・青・黄の3色の糸の中から、赤い糸だけを切る場合、「赤い糸を切る」と表記すればすべてが完了する。「赤い糸だけを切る」の「だけ」は不要であり、まして「黄色と青は絶対に切ってはいけない」など書くことは、まったく無用のことである。
 読む側の意識として、「赤い糸を切る」とあれば、記憶に残るのは「赤」だけである。これに対して「切ってはいけないもの」として他の二色が書かれていると、記憶の中で「どれが、どうだったのか」という余計な混乱をきたす原因になってしまう。基本は、シンプルがベストである。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)