「旅館経営マニュアル」 その39
表現の「シンプルさ」が大事 |
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ISOの品質マニュアルは、扇子に例えれば「カナメ・骨・紙」といった構成要素の中で、「骨」をイメージするものだと述べた。また、原則(骨)の基でのシンプルさも強調してきた。今回は、若干横道に逸れるが、表現におけるシンプルについて考えてみたい。
つい最近のことだが、絶対に「あってはならない事例」を、たまたま目にしてしまった。といって旅館ではなく、某寿司店でのことである。カウンター越に板前の手さばきに見入っていたとき、寿司ネタの一つが何かのはずみで板前の足元に落ちてしまった。この後は、書くのもおぞましいために割愛するが、あってはならない動作を、板前が平然と行ったわけである。
そうした場合、マニュアルにどう表現するかが、ここでのテーマである。 |
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同行者にマニュアルの話を向けたところ、一人は「落ちたものは絶対に拾って戻してはいけない、と明記しておくべきだと」という。別の一人は「日本の常識なら当然だけど…」といった。両者のやりとりを聞いていて不思議な気持ちになったのは、いつの間にか「日本の常識」に話がすり変わっていたことである。衛生観念から日本の食文化や日本人の潔癖性へと、まさに二転三転して際限がない。
そうした経緯を振り返ってみると「絶対に拾って戻してはいけない」といった言葉の「いけない」に原因があったようだ。このため「何で」という疑問が一方に起きてしまい、そこから話の飛躍が始まっている。
つまり、「何で」という疑問は、裏返せば「何のために」といった話になる。これでは堂々巡りになっても仕方がない。「何で」を教える教育と、実際の行為を行う場面では、表現方法におのずと違いがある。
ここで大切なことは、「絶対に拾って戻してはいけない」のが現場の大原則であれば、「何で」の疑問を差し挟ませないために、次になすべき具体的な方法を明示することである。極めてシンプルにいえば、「落したものは廃棄する」の一文でコト足りる。それが実行されていれば問題は起きない。
本シリーズでは、マニュアルに記載されたことは「確実に履行する」といった点を、何度も繰り返し述べてきた。たまたま遭遇した今回の事例は、「やってはいけない」ことを明記しようとしたのが問題だった。表現におけるシンプルさが大事なことを痛感させられた。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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