「旅館経営マニュアル」 その38
業務遂行のルールの徹底を |
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原則やルールを無視したところに臨機応変はないと前号で述べた。かつて、老舗緒間の女将が「旅館のサービスはマニュアル化できない」と言い切るのを耳にしたことがある。
確かに、「かゆいところに手が届く」といった濃密な接遇を心がけるには、型どおりのサービスでは不足する部分があり、伝統の中で培われてきた手法を、従業員が一つひとつ体験して、自ら身に付けていくとの論もわからないではない。そうした観点からマニュアル化を否定すのだろうが、これまで述べてきた品質マニュアルとは、ニュアンスが異なっていることを知る必要がある。
ISOの品質マニュアルに掲げた各事項は、「書いてあることは確実に履行する」といった性格のものである。いわば自館の定めた品質方針を具現させる原則である。
以前に述べたことではあるが「いい仲居さんだったので楽しいひとときを過ごせた」との利用客の賛辞は、そうでないケースがあることの反面教師でもある。こうした言葉は、他の旅行や他館との比較ばかりではない。グループなどで旅行した場合、「自分たちの担当者」をそれぞれ比較しあっている。言葉を換えれば、品質にバラツキがある現実を物語っているわけだ。
つまり、利用客は、どこまでも「自分が接した」「自分が感じた」という観点からしか判断や評価を下さないということである。高邁な経営理念のもとで、高品位のサービスを心がけていても、単に「心がけているだけ」の努力目標では伝わらないケースが多い。それが、提供者側の言い分と、利用者の立場にたった視点との違いである。
「利用者の立場で」とはしばしば耳にするセリフだが、それ自体が提供者側の思い込みや自己満足の範疇にとどまり、さらに現場の担当者個々に応用レベルを任せてしまうとなれば、館内のサービス内容に質的な差異が表れるのも当然である。例えば、「仲居さんの応対はよかったのだが、大浴場の担当者が無神経で…」などの言葉に表れてくる。個々の評価とトータルの評価がなされている。
そこに必要なのは、方針を貫くために確実に履行しなければならない原則の明確化であり、それを遂行する上でのルール(ないしは手順)の徹底である。ISO品質のマニュアルでは、この原則を求めている。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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