「旅館経営マニュアル」 その37
すっきりした品質マニュアルを
Press release
  2002.01.16/観光経済新聞

 前号では、ISOの認証取得と日々の運用を、扇子に例えて述べてみた。要は、自館の実情を度外視した理想を掲げる必要はないし、それで認証が取得できないとすれば、取得可能なレベルを目指した内部の再構築に、まず着手すべきだろう。本シリーズで前述したように、ISOによって内部機構をすべて一新するわけではない。従来の企業内システムを、視点を変えて見直すことによって、すっきりと整理できるケースが少なくない。この辺りは、コンサルタントの選定で述べたとおりである。
 また、扇子の「カナメ・骨・紙」のそれぞれの役割は、シンプルな形で整理できる。ISOは、品質マニュアル、作業手順書、記録などの文書化といった複雑なシステムのように思われがちだが、分解してみると個々はシンプルだといえる。原則の下でのシンプルさでもある。
 この原則を重視する姿勢は、品質マニュアルの確実な履行であるが、必ずといっていいほど投げかけられる疑義がある。「やったか・やらなかったか」というイエス・オア・ノーのシンプルな発想に対して、接客サービスを重視する現場では、「そんな割り切りではお客さまを満足させられない」といった声である。
 ここで考えなければならないのが、「やったか・やらなかったか」を言葉の上だけで「割り切り」と決め付けないことである。例えば、原則である「あいさつ」を省略することは決してできない。また、実際に所作をする場合には、自館流のルールがあっていい。しかし、タイミングや前後に付帯する言動は、状況にあわせて微妙に変化する。シンプルさを「割り切り」と否定する発想は、この微妙に変化する臨機応変に起因する。だが、原則やルールを無視したところに臨機応変はない。単に無秩序なだけで、品質維持とは別の次元でしかない。
 一つの事象は、幾つもの要素が複合することで成り立っているが、一つひとつの要素に分解すると、単純に「やったか・やらなかったか」を判断できる。その複合によって、例えば「あいさつ」ならば、誠意の伝わるものであったか否かの違いがでてくる。つまり、原則は「あいさつをする」であり、ルール(手順)が所作や臨機応変の対応であると考えれば、品質マニュアルはすっきりしたものになってくる。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)

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