「旅館経営マニュアル」 その36
「扇子」をイメージすると良い |
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ISOのマニュアルづくりのポイントとして、「必要最小限に絞り込む」と前号で示した。これは、あくまでも認証取得を前提とした捉え方である。こうした考え方は、扇子をイメージするといいだろう。
扇子は、外側の親骨と内側の何本もの骨が末端のカナメで束ねられ、放射状に広げて紙を貼ったものであるのは誰もが知っている。扇子のカナメにあたるのは経営方針・品質方針であり、骨がISOの要求事項に対応した規定である。これらの規定に連動して日常業務の細部を定めたものが、骨に貼り渡された紙である。
極論をいえば、ISOの認証取得で必要なのは、「カナメ」と「骨」である。そして、取得したISO認証を効果的に運用するために、日常の細かな決めごとである紙を貼る。
この骨と紙を混同すると、骨に細かな柄を書き込み、いたずらに太くしたり、本数を多くしたりといった結果になりかねない。これでは、涼やかな風を送り、利用客を満足させる最終の狙いが果たせなくなってしまう。労多くして益なしどころか、伝統的な持ち味さえ損なう危険性をはらんでいる。「ISOを取得したら文書化作業に追われて…」といった笑うに笑えない状況さえ引き起こしかねないわけだ。つまり、認証の条件に柔軟性を与える意味からも、骨は絞り込んだシンプルさが欠かせない。
ゆえに、紙の部分は無視してもいいという意味ではない。前述のように、紙は日常業務の規定事項である。これは、基本マニュアルとは別個に整備する必要がある。ただし、そこでの発想方法は、ISO的であることが、基本マニュアルとの整合を考える上で留意すべき点であろう。絵柄は、各館の特色を発揮したものになるはずだ。というのも、骨の一本を厨房、別の一本を配膳に例えるならば、それぞれの担当部署に固有の規定が必要なのと同時に、別々の作業をつなぎ合わせる手順の定めが欠かせない。そこに自館の特色を刷り込む余地がある。いわば、どのような模様の紙を貼るかといった問題である。
これまで、ISOは「認証を取得すれば済むといった性質のものではない」としばしば述べてきたが、こうした日常の細かな決めごとを整備し、よりスムースな運用を心がけるのもその一つといえる。骨太の規定と繊細な決め事によって、本来の目的が果たされる。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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