「旅館経営マニュアル」 その35
できないことは記載しない
Press release
  2002.01.05/観光経済新聞

 前号で「コト細かなことまで書き過ぎない」といったことがらをポイントの一つとしてあげたが、これは、品質システムを考える上で重要なことである。
 マニュアルづくりの具体的なポイントとして、次のことがいえるからだ。
「マニュアルに記載されていることがらは、必ず実行する」 つまり、現状では不可能なことがらなど「できないこと」は、記載しないというスタンスである。
 ISOの認証を取得すれば、それだけで品質レベルが向上するわけではない。経営者の定めた品質方針を確実に履行することで、はじめて自館の描くサービス品質が保持される。これは、理屈ではなく、現実に照らしてみれば自ずと理解できるはずである。
 経営方針やマニュアルづくりを大上段に構えてしまうと、極端な話として「こうありたい」との理想が先走ってしまいがちである。だが、それが実際にはできていないのが現実であることも、この際、真摯に見詰め直すことも大切である。現状に照らした「必要最小限」にとどめると前述したのには、そうした意味合いも含んでいる。
 いわば「書いたこと=決めたこと」は必ず履行するのが、ISOの品質システムを運用する上で、最も基本的なことである。マニュアルとは、まさにそれを規定し記載したものである。
 これまで「他館の真似や借り物のマニュアルでは品質の維持はできない」と幾度となく述べてきたが、そのことは「理想と現実」の違いを認識することでもある。もちろん、すべての現実を肯定して、それのみ甘んじるというのではない。
 マニュアルで大切なことは、「ひとたび作り上げたらそれで終わりではない」ということである。マニュアルが本当に生きているか否かは、それが絶えず改訂されていることも大きな要素である。換言すれば、状況の変化にもかかわらずマニュアルの一節だけが金科玉条のごとく扱われているケースなどは、まさに教条主義化した状況といえる。そうしたマニュアルの悪弊が、これまで少なくなかった。
 こうしたことがらを勘案すると、マニュアルで示す目標は、現状レベルに照らして「もう少し頑張れば達成できる」といった現実的な理想を掲げることといえそうである。これが「できないことは記載しない」というポイントでもある。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)