「旅館経営マニュアル」 その27
自館の実状を反映させる
Press release
  2001.10.27/観光経済新聞

 ISOの認証取得は、単なる登録料で済むほど「安い買い物」ではない。そこで、前号で述べた実効を引き出す課題について、今回と次回で再検討を加えたい。
 一つ目の品質システムの作り方では、「自館の実情を反映させる」という点があげられる。換言すれば、これまでに先行している大企業の品質マニュアル、あるいは同業他社のそれを真似ても、自館の実情に馴染まないということである。
 これは、旅館・ホテルが各館各様の個性をもっている以上、当然のことである。真似とは、自身の個性を否定するものでしかない。
 例えば、ISOの導入によって現場が直面する問題の一つに「文書化」がある。これは、新しい仕組みであるための戸惑いや混乱もあるが、多くの場合「文書化のし過ぎ」が問題を引き起こしている。結果として仕事量を増大させるだけでなく、大量に作られ、残された文書が活用されないまま、業務の足を引っ張ることになりかねない。これは逆効果でしかない。
 真似ではない自館の実情を強調してきたのは、そいした意味も含んでいる。さらにいえることは、他館で必要であっても、自館では不要な項目もあるはずだ。その不要なものが、現場に混乱を与える場合もあり得る。なぜならば、ISOでは、決められたことは確実に履行するのが原則だからである。そこに不要なものが含まれていれば、結果はおのずと知れよう。
 一方、ISOはともかく、自館の業務推進に必要な独自の方法やシステムは、すでにできあがっているはずである。文書化にしても、形態はまちまちだが、日常のビジネス書類、日報や報告書、チェックリストをはじめ、さまざまな文書を使用しているはずである。多少乱暴ないい方ではあるが、それらを修正することで、より精度の高い、ないしは活用範囲の広いものがつくられるはずである。
 ISOのシステム化の発想は、既存のシステムを、従来の企業側の視点ではなく、利用者の側から整理・修正していくものだといえなくもない。つまり、従来のシステムを否定し、何かまったく新しいシステムによってすべてを組替えるのとは違う。いわば、視点を変えて、より活用しやすい状態を目指すものだともいえよう。それには、経営トップがISOの機能を確実に把握する必要がある。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)