「旅館経営マニュアル」 その24
トップダウンで「全員参加」
Press release
  2001.10.06/観光経済新聞

 ISO的経営システムでは、経営者によるトップダウンが重要である。前号では合議や総意をとりまとめている間に、せっかくのチャンスを逸してしまう危険性を述べた。これは、決断しようとする内容が、大胆なものであればあるほど大切な問題である。
 かつて、ISOの認証取得に取り組んでいた経営者がいった。
 「私はISOの考え方を経営の柱に据えようとしたが、社員には少なからぬ抵抗があった」 その理由はいくつかあるが、もっとも大きかったのは、従来の方法を大きく変えようとしたことにある。例えば、文書化もその一つである。方針を文書化し、作業内容を記録文書で確認する行為は、それ以前の方法とはまったく異なるものと社員の目には映った。人間は、一度身についた方法や考え方を変えることへ、往々にして抵抗を示す。そこに、経営者と社員との「思惑」の違いが生じる。
 思惑の違いは、経営者と社員による企業への対峙の仕方の違いでもある。経営者は企業を守り発展させなければならないが、社員が守ろうとするのは自分の立場や生活でしかない。
 そうしたときに、合議や総意を意思決定のよりどころにすると、話は進まない。極端な例では、「社長がそうおっしゃるのならば」と開き直りともいえる答えさえ返ってくる。多くの場合、経営者はその言葉の前でたじろいでしまう。大胆な変革は、それによって後退してしまうケースも少なくない。そこにも経営者によるトップダウンの重要性が潜んでいる。
 ISOを運用するうえで大切なことの一つに「全員参加」がある。経営者の方針に沿って事業を推進する以上、これは当然のことである。一部の社員が運用のらち外にいたとすれば、社内システムが機能しなくなる。したがって、具体的な細部の詰めでは、全員参加による姿勢も必要になる。
 ただし、これも総意や合議ではなく、トップダウンで決めたことを確実に推進するための、一つの方法と捉えておきたい。
 要は、こうした場面において、経営者のリーダーシップ発揮されなければならないということである。いま、企業に限らずあらゆる場面でトップのリーダーシップが問われている。ISOの認証取得を社内外へ大胆に示すことは、その一つといえよう。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)