「旅館経営マニュアル」 その23
経営者のトップダウンを |
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前号で決断に言及したのは、これまでに述べてきたように、ISOの導入では、経営トップの決断が何よりも大切だからである。従来の経営手法では、ややもすると「合議」や「総意」を決断のよりどころとする傾向があった。談合や根回しとは若干異なるが、日本型の決着のつけ方、落としどころの導き方といえる。
こうした方法は、余計な摩擦や軋轢を事前に回避するものと考えられ、そのために費やされる時間と労力については、あまり問われてこなかった。だが、時代の流れとして見直し傾向が高まっているのも、一つの事実だといえよう。
さて、本稿で述べたいのは、見直しの理由を詮索することではなく、こうした方法は、安易に時間を浪費して「決断の機会」を逸する危険性があるという点である。視点を換えれば、決断への手順を改めて考える必要があるともいえる。
結論からいえば、いまこそ経営者のトップダウンが求められているということである。それは、ISOの導入に限ったものではない。若干の飛躍が許されるならば、ISOの導入が経営者に求められるトップダウンの姿勢を、改めて教えてくれているともいえる。
確かに、旧来の「合議」は、決断した結果をスムースに運ばせる上で、いくばくかの効果は認められる。ただ、その時の「経営者の役割」を冷静に捉えてみると、リーダーシップに長けているとはいい難い感がある。極論すれば、本シリーズで前述した「責任と権限」に対する意識が、希薄化しているともいえる。経営者の「権限」において決断し、結果への「責任」を負うという点である。
前号で例示したある企業の経営者が、ISO導入に際して「私自身が責任をもって決断した」とは、こうした意味合いである。さらに「ISOに出会った私は、自ら熟考したあと、全社員に向かって『取得宣言』をした」と語った。
ひるがえって、ISOにおける「経営方針」「品質方針」は、経営者によって初めて明確化されるものであると考えるならば、経営者の責任においてなされることは自明の理である。例えとしての適切さは別にして、自館の経営方針を第三者(幹部社員)との総意で打ち出そうとする経営者はいないはずである。意見を聴取するのと総意は違う。前述の取得宣言は、まさにトップダウンの象徴といえよう。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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