「旅館経営マニュアル」 その20
サービスの「プロセス管理」 |
Press release |
|
「皆さんは自分の旅館に客の立場で泊まったことがありますか」「いくら使い捨てとはいっても、こんなに硬い歯ブラシを使う気になれますか」
サービス改善のセミナーなどで、講師が使う常套フレーズとして、このような言葉を耳にしたことがあるはずだ。言葉としての内容の是非はともかく、ここでは実態把握と改善へ向けた姿勢を喚起するフレーズとして捉えておく。前号で示した「絶えず経営者の目が行き届いていなければならないはずだ」ということも、これと類似している。
ただ、ISOと従来の考え方の基本的な違いは、結果としての評価を重視するのか、プロセスを評価するのかのにある。ISOでは後者の立場をとっている。
例えばクレームを考えてみたい。従来の発想では、クレームをどう減らすかが基本にあった。サービス現場での小さな工夫や見直しが重視され、その積み重ねで品質を向上させてきた。いわば従業員の自主的な創意工夫をボトムアップする方法だ。経営者は、それへの示唆や承認をしてきた。
一方、ISOではサービスを生み出すプロセス管理を重視している。たとえ結果が好評であっても、それが自館で定めた正しい手順を踏まえていなければ、クレーム発生の可能性が否定できないとみる。結果だけでなく、結果を想定したプロセス管理なのである。
旅館・ホテルにおけるクレームは、結果を重視した従来の発想だと、最前線に立つ接客係が評価の基準になりかねない。ところが、実際の業務を大局的に俯瞰するとそうではない。経営者は方針を定め、それに基づいて営業が展開され、食材をはじめとした外部からの仕入れが行われる。また、方針に沿った社員教育が行われていることなどを考えあわせると、すべてが相互に関連しあっている。
実態をこのような視点でとらえると、接客係だけが評価の基準になっているとはいえなくなるはずだ。接客サービスは、経営方針に則った総体の一部なのである。営業が「このようなサービスや料理を提供します」といっても、サービス現場でそれが満たさなければクレームにつながる。
誤解してならないのは、ゆえにISOが絶対であり、従来の発想はダメだというのではない。トップダウンとボトムアップの両者があいまってこそ、品質の向上が図られると考える。 (続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
|
(つづく) |
|