「旅館経営マニュアル」 その16
なぜ、「文書化」が必要か
Press release
  2001.08.04/観光経済新聞

 ISOでは、前号で示したとおり文書化が大きなカギを握っている。その結果「ISOを始めると文書づくりに追われる」といった話をしばしば耳にする。もちろん、こうした認識は誤りである。その原因を考える前に、文書化がなぜ必要なのかを述べてみたい。
 サービスを提供する上でマニュアルが必要なことは常識化しているが、ややもすると運用面で形骸化しているケースがある。なぜ、そうなるか。大きな要因としては、本シリーズで示した「建前と本音」の意識構造があげられる。つまり、文書に書き示した事柄は「建前」であって、実際には「ケース・バイ・ケースで最善の努力を払う」ことに価値を見出す日本人的な発想があげられる。視点を換えると、「わざわざ文書化しなくても、やるべきことは確実に実行する」「たとえ口約束でも約束したことは履行する」といった美意識が横たわっている。
 こうした日本的発想は、日常の業務や人間関係をスムースに運ぶ潤滑油をして、それ自体が否定されるものではないだろう。ただし、この「常識」がグローバルな視点で認められるかといえば、答えは否である。
 大切なことは、文書化したものは「本音」であるという認識である。例えば契約書と同じであって、そこに書かれた内容は正確に実行されなければならない。マニュアルの形骸化などは、こうした認識に欠ける結果でもある。
 このような文書の「建前化」は、ISOでは否定される。ISOで要求されるものは、「文書に書き示したものは確実に履行する」といった姿勢である。現実にそぐわない文書化は求めていない。仮に形骸化するような事態が発生したとしても、前号で記したように「絶えず検討し実情により近づける改定をISOでは要求している」のである。この「見直し」の機能が、実情にマッチした本音を形づくっているといえよう。
 よく「使える文書」といわれるが、使えるか否かのカギは、書かれたたものが本音であり、それを本音と受けとめる姿勢があって成り立つ関係だといえよう。文書化された内容に沿って対応したにもかかわらずクレームが発生したとすれば、同じクレームを再発させないために書き改める。そのためには文章による正確な記録が欠かせない。決して文書の山をつくっているわけではないのだ。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)