「旅館経営マニュアル」 その15
文書での記録欠かせない |
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サービスの方法については、微細の度合いこそ違いがあるものの、一定の基準を決めて示すケースが大半である。ときには、それが膨大なマニュアルとなって整備されたりもする。つくられたマニュアル冊子が厚ければ、そこで提供されるサービスの満足度が高くなるのか。この問いには、多くの人間が疑問を抱いているはずだ。満足度は、決してマニュアルの厚さとは比例しない。ここに、前号で示した検証の重要性が秘められているといえる。
ISOについては、本シリーズの冒頭で「品質管理の能力をシステムとして捉える」ものであり「工業規格のような物差しと同一視した場合に誤解が生じる」と指摘した。その意味でマニュアルは、規格ともいえそうであり、現実に密着したものと考えられよう。だが、そのマニュアルを忠実に履行しても、実際にはクレームが発生してしまう。
つまり、実践重視と思われているマニュアルが、実は理念に流されているケースが少なくないということである。いい換えれば、場面ごとに違うおじぎや接遇会話を、どんなに微細に例示しても、現実はそれ以上に多様な対応を求めている。といって簡略化すれば抽象的になってしまい、そこにも問題がある。
これに対して、具体的な規格を示さないISOの方が、はるかに現実と密着しているといえそうである。これは、前号で示した「顧客の満足度をチェックし、経営者による見直し」が、システムとして組み込まれているからである。ひとたび完成をみたものであっても、絶えず検討し実情により近づける改定をISOでは要求している。一般的なマニュアルの形骸化による弊害は、これを排除する品質管理システムを最初から求めているともいえよう。
余談ではあるが、一人でファーストフーズ店を訪れた客が、十人前を注文したにもかかわらず「こちらでお召し上がりですか」と聞かれて憤慨したという話をつい最近聞いた。お客様第一を考えるならば、店に訪れる客総体ではなく、目の前で接する「あなた」への関心が常になければならない。それはともかく、このファーストフーズ店では、前記のような来店客への問いかけが、果たして見直される日があるのだろうか。
そして、経営者が見直すとき、文書による記録が欠かせない。これもISOならではの要求事項である。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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