「旅館経営マニュアル」 その12
本音に立脚した仕組みに
Press release
  2001.07.07/観光経済新聞

 クレームを発生させてはならないが、発生自体は否定しない。前号で示したこの一文は、あくまでも象徴的な論法である。要は、「建前と本音」の世界の中で、「本音」を見据えた対処方法を講じる必要があるということだ。
 いわば、本音に立脚した仕組みづくりが、ISOでは求められている。ただし、ISOに具体的な対処方法が明示されているわけではない。この点が基準と規格の違いともいえよう。規格であれば、守るべき一定のラインが示され、それに合致しないものを排除することでコト足りる。
 例えば、クレームを規格的な発想で捉えると、単純に「排除すればいい」といった論法になってしまう。ところが、現実に発生するクレームは、単純な要因だけとは言い切れない。むしる多種多様な要素がからみあって発生している。一定の「規格外」がクレーム要因であれば、規格を確実に守ればいいわけだが、それでは現実に対応できないことを誰もが知っている。 そうなると、提供するサービスの規格を明確にするだけでは、対処がおぼつかないことになってしまう。極端な話が、どんなに分厚いマニュアルをつくってみても、該当しない事象が多々発生するという現実に直面することになる。
 視点を変えると、発生したクレームは「規格への不適合」といった要因だけではないということだ。つまり、規格が優先的な発想をしてしまうと、クレームの発生は「絶対に認められない」ことになる。しかし、現実に発生する可能性を断ち切れない以上、そこにジレンマが発生し、ある意味で組織を硬直化させることにつながってしまう。
 そこで、クレームは「発生しうる」が「発生させてはならない」といった認識のもとで、発生した場合の「対処方法」を念頭においたシステムづくりが求められるわけだ。
 回りくどい表現になってしまったが、要は「クレームが起こりうる現実」を本音で捉えることが第一歩であり、「クレームはあってはならない」といった建前にこだわらないことが大切である。
この点を明確に認識しておかないと、ISOで重視する「文書化」の作業そのものが、「ISOを導入したら日々の文書化に追われ、文書の山ができただけ」といった、笑うに笑えぬ失敗談につながってしまう。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)