「旅館経営マニュアル」 その10
標語の精神、どう具体化するか |
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旅館・ホテルをはじめサービス業では「お客様第一主義」を掲げるケースがしばしばある。これ自体は大切なことであり、もとより反論の余地はない。問題は、実際の場面で標語の精神を、どのように具体化していくかである。標語を単なる絵空事に終わらせるか、標語どおりの満足度を提供するかである。
「私はお客さまのことを考えてご説明しました」
「でも、君に意見を求めたわけではない」
聞かれたことに答えた接客係のひと言が、客に不快感を与えてしまい、フォローに当たった上司から叱責されている一コマである。接客係としては自己の判断で最善の対応を試みたものであって、それ自体が問題だとは言い切れない。
このケースは、責任と権限といったここでのテーマと若干ニュアンスは異なるが、背景には「お客様第一主義」に対する理解上の個人差が潜んでいる。
こうした個人差を突き詰めていくと、個人の資質以上に、組織的な問題点に行き当たるケースがしばしばある。つまり、標語を具体的な作業現場で落としこむ仕組みが不在だといえる。
冒頭の接客における「お客様第一主義」の標語は、きわめて身近であり当然のように受け入れられるが、実際のケースを当てはめて文書化しようとすると、かなり難しい作業が伴う。頭や身体で習慣的に身についている事柄は、現実場面を離れて客観的に整理するのが難しいからだ。
加えて前述のように責任と権限明確化されていないことも、なすべき業務を分かり難くさせる一因になっている。つまり、担当者の責任の範囲が明確であって、業務内容が的確に把握されていれば、標語を業務の中へ具体的に転化することも可能となる。これは、ISOで要求される品質方針を達成する上で、組織(部署)としても、あるいは個人としても大切な点である。
視点を変えると、ISOでいうところの品質システムが構築されていないために起きる企業内の「仕組み」そのものの欠陥でもある。
もっとも、責任と権限の付与には難しい問題が多々あり、安易な対応はいたずらに混乱を招くことにもつながる。極論をいえば、ISOの一部をご都合主義的に取り出して、本来の要求事項をはじめとした全体の理解なしに応用しようとすれば、そうした混乱に陥ることが必定である。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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