「旅館経営マニュアル」 その8
トップダウンかボトムアップか |
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自主的な努力は、何ごとにおいても賞賛に値する。これを否定してしまうと、人間関係がギクシャクしてくる。いわゆる意思の疎通に問題が生じると、企業内ならば指揮・命令系統に混乱をきたすことにもなりかねない。
問題は、自主性と表裏の関係にある「規定の方針」が、どこまで明確に定められているかである。
本シリーズでは、ISOの認証取得にあたって経営者による「経営方針」「品質方針」の明確化が、さまざまな面で大きな意味合いをもっていると述べてきた。自主性の問題も、この点と大きくかかわっている。
結論からいえば、ISOにおける管理システムは、経営者の「トップダウン」が基本だからである。これに対して前号でとりあげたQC活動は「ボトムアップ」だといえる。
この「トップダウン」といった表現は、ややもすると「ワンマン経営」と混同されがちだ。しかし、グローバルな視点で捉えると、責任と権限を明確にした常識的な経営スタイルが、トップダウンなのである。
経営トップが陣頭指揮にあたることは、指揮を鼓舞するうえで大きな価値がある。考えねばならないのは、そこにおける管理システムである。ワンマン経営といわれる管理下での社員は、言葉は悪いが「イエスマン」になりがちである。社員の自主的な努力さえ、場合によっては「出すぎたマネ」と批判されることもある。これでは自主的な努力の芽さえ刈り取られてしまう。
一方、QC活動の提案制度をボトムアップの象徴と捉えるのは、いささか斜に構えたうがちかもしれない。だが、ワンマン経営のショックアブソーバー的に映るのは否定し難い一面がある。つまり、これまでの日本企業の常識では、ワンマン経営とボトムアップが奇妙なバランスで成り立ってきたともいえる。
これに対してISOの管理システムでは、経営者と従業員の「責任と権限」が、極めて明快に整理される必要がある。言葉を換えれば、経営者も従業員も、それぞれの責任と権限の範囲で、定められた目標の実現へ向けて職務を遂行することになる。
ISOとQCは、トップダウンとボトムアップの対極にあるが、どちらが望ましいといった短絡は避けねばならない。責任と権限が明確化されることによって双方が機能しあうからである。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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