「旅館経営マニュアル」 その5
“伝統と文化”を維持するため |
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「日本旅館の伝統を受け継ぎ、心のこもったサービスで寛ぎのひと時を提供する。そのときに国際標準が何の意味をもつのか」
きわめて当然ともいえる質問にしばしば遭遇する。そこで、視点を一般的な品質管理に置き換えて考えてみよう。
これまで製品チェックといえば抜き取り検査が一般的であり、そこでOKが出れば、少なくともそのラインで生産されたロット分の品質は「大丈夫だ」とみなされていた。ところが、現実には異物の混入などの事故が発生し、こうした検査体制だけでは十分とはいえないといった認識が芽生えてきた。なぜならば、企業はそのたびに製品の回収などで大きな損失にみまわれているからだ。
旅館・ホテルも同様に、どんなに立派な施設をつくり、素晴らしい料理やサービスを提供しても、万一の事故が発生すれば、それらの努力は一瞬にして灰燼に帰してしまう。その万一の事故として食中毒がある。原因はさまざまだが、現象としていえることは、旅館側が「限りなく白に近い灰色」の場合でも、それが明確に証明できなければ「黒」に甘んじなければならない。こうしたケースは決して少なくない。
要は、川上にまでさかのぼって品質方針に適合しているか否か、といったチェックを可能とさせるシステムが必要になってきた。背景には、消費者保護を重視した次代の趨勢がある。これを「厄介な」と受けとめて忌避することも、めんどうだと回避することもできない。それが、消費者のニーズに合致しているからである。逆に、こうしたチェック機能は、消費者を保護する以上に、企業そのものをガードするものであると認識できよう。いわば危機管理システムであり、発想の転換である。
自らを守るためのISO認証の取得は、一方では前号で指摘したように「経営方針」「品質方針」を検証刷る過程、あるいは日々の文書化作業を通じて品質の維持・向上に大きく寄与する。
冒頭の「寛ぎのひと時」と国際標準とは、直接的に結びつくとはいい難いが、変化する社会のニーズに対応するための管理システムとして捉えてとき、「寛ぎのひと時」を裏打ちする大きな意味合いを含んでいる換言すれば、日本の伝統や文化を、より確実に維持するためにもISOは欠かせない要素といえよう。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
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(つづく) |
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