「旅館経営マニュアル」 その3
「事業目的」の具現化へ
Press release
  2001.04.28/観光経済新聞

 ISOが自館の実情を把握するガイドラインになると前回指摘したが、これはISOが経営面の諸データを即座に導き出すという意味ではない。大切なことは、ISOの認証取得を目指そうとするときに、経営者が自ら決定し、明記しなければならない「経営方針」「品質方針」を十二分に自己検証するプロセスが不可欠という点を指している。
 このことは、「分かっていたこと」を改めて見直し、文書化することで、実態がより明確になるとともに、不足していた部分も見えてくる効果がある。これが実情把握の第一歩になる。
 たとえば、温かいものは温かく・冷たいものは冷たくといった料理提供、心のこもった接客サービスなどの日常業務、和風の趣を強調した現代数奇屋をはじめとする施設展開、いずれも経営者の経営意図が反映されたものにほかならない。
 だが、それらは方針を具体化したものであって、方針そのものとはいい難い。なぜならば、具体化されたものは「手段」であって、「目的」ではない。
 ところが、手段が充実してくると、目的が達成されたような錯覚に陥るのが常である。そのこと自体は否定しないし、伝統はそうした手段をとことん磨くことから生まれるためだ。ただし、「創業者精神」といった言葉に代表されるように、創業者にあっては、その手段を生み出す前に本来の「目的」があり、それを具体化するために現在の手段を生み出したことも忘れてはならない。それを忘れたときに、手段が目的化してニーズの変化に耐えられなくなる。
 逆を考えてみよう。旅館・ホテルの基本は「快適・清潔・安全」と言われてきた。本来の目的(理念)を見える形に表し、手段としたものが「施設・料理・サービス」である。クオリティーであるこれらは、利用者が体感できるものだが、一方で安全をはじめ確実に提供しなければならないものがある。
 見えるものと見えないもの、この両輪が確実に機能して、はじめて目的に向かう形が整う。これは誰もが認めるところだが、後者は経験則や日々の業務の陰に埋もれて、おろそかになりがちだともいえる。
 その結果、忌まわしいことではあるが「万一」「不測の事態」が忘れたころに襲ってくることにもなりかねない。 この両輪を確実に機能させるためのシステムが、ISOだともいえる。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)