「旅館経営マニュアル」 その2
実情を把握するガイドライン
Press release
  2001.04.21/観光経済新聞

 旅館・ホテルでISOを話題にしたとき、多くの場合に素朴な疑問が投げかけられる。 「私のところは、日本人のお客さまが国内旅行を楽しむときに宿泊する施設であり、国際化や国際規格とは無縁だ」という一言である。
 確かに、ISOの背景にはグローバリゼーションがあり、国内だけがターゲットである以上、とりわけ国際標準の必要性を感じなくても無理はないところだ。 こうした解釈は、前号で例示した一般の工場製品で当初、誤解があったことがらと共通する一面がある。 結論からいえば、ISOでの捉え方は、部品の一つひとつにまで「管理責任」があるということ。
 つまり子会社・孫会社の部品であっても、国際標準の規格を満たしていなければならないということだった。
 ところが、この論は冒頭の宿泊施設の疑問とは、どこかかみ合わない。 いい換えれば、旅館・ホテルにはそれぞれのサービス手法や日本的な伝統があり、国際標準とは別モノだという意識である。 あえて国際標準の規格を取り入れる必要などないということだ。 ここで再度指摘をしておきたいことは、ISOが製品やサービスの国際標準の規格といっても、「具体的な物差し」ではないということ。 工業規格といえばJIS(日本工業規格)があり、それを国際規格にしたのがISOと連想してしまうが、決して細部までコト細かに規程したものではない。
 たとえば、旅館・ホテルのサービスにあてはめるならば、「接客の基準としてこうしなさい」「メンテナンスの状態はこれが基準です」「食事においてはこのサービス形態を」と規程したものではないということだ。
 では、いったい何が規程なのかといえば、いわゆる「品質方針」を明確にすることである。
 ISOでは、品質管理マニュアルが底本ともいえるが、端的にいえば内容はそれぞれの企業が定めていく。 換言すれば、品質方針に適合した製品を生み見出し、あるいはサービスを提供するプロセスそのものにスポットを当てたものだともいえる。 いわば、サービスを提供していく際のプロセスがどのように構築され、運営されているかである。
 したがって、構造改革を進める旅館・ホテルにおいてISOは、自館の実情を明確に把握するガイドラインとして大きな意味合いをもつともいえよう。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)
(つづく)