「社員教育」 その27
社内理解ある人事考課を
Press release
  2001.03.10/観光経済新聞

 人事考課をシステムとして導入する場合、判断基準が明確でなければならない。また、判断基準に沿った教育体系やマニュアルが整備されていなければ、等級別の給与体系や能力に見合った技能給を制度化しても、結局は"絵に描いたもち"に終わる。
 こうした制度を一足飛びに実行すると、まさに砂上の楼閣であり、結果として従来もちあわせていた伝統まで失うことになる。砂上の楼閣とは、「1+1」の計算をマスターできなければ、百の位、千の位の足し算はできないというのに等しい。
 そこで、前提となるのが教育システムであり、マニュアルということになる。これらがここで果たす役割でもっとも大きな意味をもつのが、責任を明確化すること。教育システムやマニュアルを構築する過程で、おのずと業務自体の見直しが行われ、内容が明確化してくる。これによって、一人ひとりがなすべき業務内容と責任が明らかになってくる。したがって、目標の達成度合いも明瞭になる。責任分野を明確にしなければ、査定の判断基準があいまいになってしまうわけだ。
 一足飛びではなく一歩づつ段階的にシステムを導入する意味合いとして、従業員のコンセンサスの問題もある。新しいシステムは、とかく拒否反応を示すのが人間の常である。当然ながら人事考課もその例外ではない。
 前号で述べた「やればやるだけ返ってくる。やらなければ返ってこない」という点をとりあげてみても、前者の「やっただけ」は歓迎なのだが、後者の「やらなければ」の段になると腰が引けてくる。だが、これで情を差し挟んでいては、新しい取り組みは難しい。
 実際にスタートさせる段階では、事前に全社員からアンケートをとる。いまの「給与体系をどう思うか」「業績評価をどう思うか」といった設問を投げかける。これに対して返ってくる答えは、おおむね予測がつく。九〇%は「やっただけほしい」「やったら評価してほしい」となる。そこで、「皆さんが望んでいた」新しい人事考課をスタートさせることになる。
 こうした人事考課は、最終的には従業員にとってプラス要因のシステムとなる。ただし、これには企業全体を俯瞰するトータルなスタンスでのシステム化が、企業側に不可欠であり、等級別給与体系や技能給制度をコピーするだけでは達成できない。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)