「社員教育」 その19
「業務のチェックリスト」
Press release
  2001.01.05/観光経済新聞

 「これは、あなたがやるべき仕事でしょう」
 「いいえ、私は指示も受けていないし、普段はあなたが行っていたはずです」
 しばしば目にする責任のなすり合いだ。旅館・ホテルの業務は、複数の業務分野が幾重にも重なりあいながら総合的なサービスを提供している。指示・連絡系統が乱れると、当然ながら「誰かがしているはず」といった形で、本当は誰もが忘れている場合もある。それがクレームにつながる。
 冒頭のケースでは、背後に業務遂行上でのシステム的な不備もあるが、現象面だけを捉えれば責任を転嫁し合っているのにほかならない。視点を換えれば、社内コンセンサスを醸成する教育システムの不完全さもある。
 責任体制の明確化で有効なシステムとなるのは、全セクションにおける業務内容の「チェックリスト」化であり、指定チェック項目の完全履行体制である。
 例えば、パブリックスペースである大浴場やトイレなどは、点検システムを実施しているケースも少なくない。定時点検の回数や前後の間隔なども決まっているはずだ。
 大切なことは、それらのチェックを完全履行するのと同時に、作業を行った人間が一日の業務が終了時点で最終確認とサインを行い、さらに担当部署の責任者が日付を明記して会社に提出するなど、システムとして確実に管理・運用されることだ。つまり、会社に提出する最終のサインが形だけのものであれば、いずれは形骸化して所期の目的が果たせなくなる。
 パブリックトイレの片隅に変色しかけたチェックリストがぶら下がっているケースなどは論外だが、システムをつくっても運用がおざなりならば意味はない。逆に、確実に履行されていれば、クレームが発生した日にさかのぼって原因や問題点の究明もできる。また、チェックリスト化は、施設管理のハード面だけでなく、ソフト面でも展開される必要がある。
 チェックリスト化で責任体制をクリアにすることは、ミスを行った当事者が常に判明するという体制でもある。これは、社内教育とも深くかかわってくる。日常業務に付随して行われる日々の教育は、抽象論ではなくリアリティーに富んだ具体的な内容が求められる。クレームとチェックリストから浮かびあがる事例は、まさに質的向上につながるリアルな教育材料にほかならない。