「社員教育」 その16
クレーム撲滅のために
Press release
  2000.12.02/観光経済新聞

 社員教育に関連するマニュアルの整備、あるいは講義・自習・テスト・OJTなどの実施プログラムに至る教育システムは、これまで述べたように人件費の観点から多様な捉え方ができる。
 さらに視点を換えると、当然ながら旅館・ホテルの品質確立が、一方の大きな柱でもある。教育期間中にテストを組み込むのは、業務遂行の知識レベルを単に把握するだけでなく、実務レベルに向けた習熟度合いを予測し、現場配置の目安にもなっている。
 そこには、企業の内的な業務遂行に対する視点と、外的な品質の提示・表出の両面がある。とりわけ旅館・ホテルでは、外的な品質提示が利用客の好感度を左右し、結果として業績の好不調に大きくかかわってくる。
 「あの人の接客は、言葉づかいも物腰も申し分ないのだけれど、ときどき思いがけないポカをやるので任せきれない」
 こうした評をされる人間がしばしばいる。現実の場面では、いわゆる“人柄”から大目にみられことも少なくないが、基本的には問題がある。内的な業務遂行の能力、外的な品質維持の姿勢が錯綜している。言い換えれば両者に対する認識が不足しているのだが、それを個人のキャラクターが包み隠しているわけだ。
 そこで発生した“ポカ”は、個人レベルでのミスで済まされる問題ではなく、旅館・ホテルに向けられるクレームとしての認識と対応が不可欠である。  クレームは発生させないのが大前提であり、そのための教育である。経営セミナーなどで取り上げられるクレーム対処の実例として、次のようなものがある。
 「大切なお客さまとの約束を違えてしまったのだが、後の対応に誠心誠意をつくしたため、結果として好感をもっていただき、さらにリピーター化したケースがある」
 こうした実例を示され、「ならば当館でもクレームを発生させよう」などと考える人はいないはずだ。大切なことは、経営側が教育課程によって自館の品質方針を明確に植え付け、日常業務でそれを確実に履行させるシステムを構築することである。
 日常でみられる「災い転じて福となす」といったスタンドプレーでは、品質の維持はできないし、クレームの撲滅にはならない。クレームの発生メカニズムに目を向けながら考えることが必要である。
(つづく)