「社員教育」 その3
「原則と応用」区分を
Press release
  2000.08.26/観光経済新聞

「原則と応用」区分せよ

 「マニュアルから何を連想するか」といわれて、「画一」の言葉を思い浮かべたとしたら、考え直す必要がある。
 たとえば、チェックインをして客室に通され、いざ寛ごうとしたお客の気持ちに水を注すのが、だらだらと続く非常口と館内説明だ。これらが安全で快適な時間を過ごす必要条件であることは分かる。マニュアルにもその重要性が詳細に説明されているはずで、それを履行するのは当然だが、時としてお客の第一印象を損なっていることも知っておく必要がある。
 大切なのは、絶対に行わなければならない説明や行為と、行った方が好ましいものとの違いを、原則と応用の視点から明確に区分して記載し、さらに両者の違い理解させる教育システムにある。
 冒頭の「画一」の正体は、原則と応用が混在するだけでなく、全部が原則に終始している場合に生じる。もちろん、最初からそんなマニュアルづくりを誰も考えたりしないはずだ。
 「当館ではマニュアルづくりにおいても、十分に時間とカネを投じた」と、部門別の分厚いマニュアルを前に豪語する経営者がいる。その姿には、「従業員教育のすべてがここに収められている」といった自負と安堵が垣間見られる。
 その分厚いマニュアルには、確かに各部門の具体的な事例に則して、細かな動作まで記載されているが、読み進むと完璧とはいえない。詳細であればあるほど、細部の欠落が浮かんでくる。
 極端な例を一つ。他愛のない会話と周囲を眺めながら客室に案内されている途中で、従業員が急に腰をかがめた。落ちていた小さな紙くずをつまむと、さり気なく懐紙に包んだ。たまたま目についてマニュアルどおりの処置をしたわけだ。部屋では、お茶を用意しながら一通りの説明をする。どれもが、原則に則している。応用があるとすれば、落ちていた紙くずと部屋での所作の間をどう関連づけるからだ。
 マニュアルによる原則的な対処方法での答えは数通りあるが、この時点で大切なことは、お客の案内が第一義だったということ。そうでない場合は、紙くずを拾うのが第一義かもしれない。 つまり、原則と応用の違いを徹底することが、マニュアルづくりとマニュアル教育の出発点といえる。そうして培われたマニュアルの世界は、決して「画一」に流れるものではない。
(続く=企画設計主任コンサルタント・平野茂登)